Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「なるほど、クリスマス前のデートですか。それは気合が入りますね」
あたしの発言は時として嫌味と捉えられてしまう。だからこそ少し笑った(つもり)
マナミさんは顔を赤くして
「いえ、クリスマスイブは彼、海外出張で……だから会えなくて」
マナミさんは顔を赤くしたままそれでもどこか嬉しそう。
「海外?どちらへ?」
「アメリカって聞きました」
アメリカ?
海外出張?
アメリカの企業ならば多くの企業がもうクリスマス休暇に入っている筈だ。現にあたしが取引しているアメリカ企業の多くはもう取引をまとめた後だ。
クリスマスはアメリカでは日本に比べもにならない程一大イベント。そんなときに出張?
ちょっと引っかかった。
「マナミさんの彼氏は何をされている人なのですか?」
「IT系って言ってましたけど、詳しくは分からなくて……」
「そう、ですか……」
首を突っ込んじゃダメだ。マナミさんの彼氏はどうも胡散臭いけれど恋をしているのはマナミさんだ。あたしがあれこれ言って破局させるわけにもいかない。
「今日のデートうまくいくといいですね」
「はい!頑張ります!」マナミさんは手をグーにして顔の前でファイティングポーズ。
ふふっ、可愛らしい。
こんな可愛い子に嘘をつく男は――――
「あの、マナミさん……」
やはり気になって声を掛けたところ、トイレの扉が開いた音が聞こえてきてあたしはその言葉を呑みこんだ。
入ってきたのは緑川さんだった。