Fahrenheit -華氏- Ⅲ


「―――え…!」マナミさんが声をあげ慌てて口元を手で覆う。


「何故驚かれるんです?私が完璧な恋愛をしている、とでもお思いでしたか?」マナミさんに笑いかけると、マナミさんは大きく頷いた。


「だって柏木補佐……すごくしっかりしてるし…」


「マナミさん、あなたは素敵なひとです。確かに女性は結婚に憧れる生き物ですが、結婚はあくまでスタート地点に過ぎません。昨日の彼と例え結婚にこじつけても、あなたの将来、あなたに同じようなことをすると思います。


ですから早く知って良かったと思います」


傷心中のマナミさんにはキツイ物言いかもしれないが、あたしがマックスと生活してマナミさんと同じように時間を返して欲しいと思ったのは経験談。挙句愛する娘まで取られてあたしには何も残らなかった。そんなことマナミさんに経験してほしくない。


あたしは今、どんな顔をしているのだろう。


マナミさんがごくりと喉を鳴らし、再びスプーンを持つ手に力を入れた。


「確かに柏木補佐の言う通りですよね!早まってもっと泥沼になってたら、もしかしたら涼介さんの奥さんから慰謝料請求までされてたかもしれない」


そこまでは想像をしていなかったが、もしかしてそう言う未来があったかもしれない。


「そうですよ、早く分かって良かったですよ。サレる側の気持ちを分からない男は最低です」瑞野さんも真剣に頷いた。


サレる側―――瑞野さんは今、どんな気持ちでそう言っているのか、彼女の頭の中を覗き込みたくなった。

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