Fahrenheit -華氏- Ⅲ

能面を外したとき。



♠ K ♠

能楽者たちはあの暗い世界で―――舞台で演技をするのだ。悲観、苦悶、憤怒。あらゆる感情をたった一枚の面で


演技する。


20XX年12月21日 水曜日


瑞野さんが外資に出向してから一週間が経った。


一週間、二村から何の接触も嫌がらせもない。ただ瑠華を監視するように時折…そうだな、コピーを取りに行ったり資料室やトイレ、喫煙ルームに向かう途中ちらりちらりとこちらを気にしているようだったが。絶対その視線に気づいているだろうが瑠華は気にしていない素振り。勿論俺も。


瑞野さんも瑞野さんで、二村に接触するようなことはない。いつも決められた席に座り俺が頼んだ仕事をきっちりこなしてくれる。トイレに立つ回は多い気がしたが、それを気にしたらセクハラだと思われそうだ。その間に二村に接触しているのかと思ったが、瑞野さんがトイレに立つ時彼女は急に席を立ち、スマホはそのまま、誰かと連絡を取っているようには思えないし、最初は何度も隣の部署を覗いたが二村が席から動く気配はなかった。


昼休みも瑠華と一緒だし、二村は接触の仕様がないみたいで、さぞ苛立っているだろう。


と言うのも、最近村木の二村に対する当たりが強い。良く隣のブースから二村へ対する怒号が聞こえてくるのだ。


「こんな簡単な書類もミスするのか!」とか?「先方との打ち合わせに遅れていくとはどういうことか!」とか。


まぁ?俺でも佐々木がそうだったら注意してたろうが、村木のはなぁ、完全にパワハラ入ってるよな。あれで訴えられないのが不思議だ。村木は嫌いだが、二村もざまぁない、と内心せせら笑っている俺。しかし村木もなぁ…相手は認知されてないとは言え常務の隠し子だぞ?緑川のときも思ったがあいつホントに容赦がないんだな。まぁ変に媚びることがなく気持ちはいいが。


村木の声が聞こえてくる度、慣れていないのか、或いは二村が怒られているのが気になるのか瑞野さんの肩がびくりと揺れるのが気になるが、最近は慣れてきたのかそれも少なくなってきた。


その日の昼休憩前、桐島からメールが入った。


内容は”裕二とランチに行かない?ちょっと気になること見つけちゃって”と言うものだった。


今、ちょうど瑠華と瑞野さんがランチに入っている時間帯だ。最近は佐々木と一緒だったが、佐々木に用が出来たと言うと佐々木は疑いもせずあっさりと「分かりました~久しぶりに一人でゆっくりします~」と……


おい!俺が居たらゆっくりできねんかよ!


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