Fahrenheit -華氏- Ⅲ

「思ったより通路が狭いですね」と言い出したのは佐々木だった。十字に走った通路の段差を屈んで眺めている。当日張られる筈の水は今はない。ただ冷たいコンクリートの床がやけに寒々しいと言うのかあっさりとした白色を放っていた。


「中央はそれなりにあるのでメインはそこで、ただ移動の際はやはり通路を使った方が映えますね」


瑠華も腕を組んで会場を眺めている。


「ここで踊るんですか?」と瑞野さんがちょっと心配そうに眉を下げた。


「その方がインパクトがあるってことで考えたんだよ」俺が説明をすると


「怪我に気を付けてくださいね」と瑞野さんはあくまで不安顔。


「記録は佐々木さんにお任せします。危ないので瑞野さんは隅の方で見学していてください」と瑠華が淡々と言い


「でも……あたしだけ何もしないなんて…」と瑞野さんはあくまで真面目だな。


「では遠くから動画を撮ってください。近くだと分からないこともありますので」と瑠華はあっさり。


何か力になれたと言うのが嬉しいのか「はい!」と瑞野さんは元気に答えた。


と言うわけで練習は始まった。


まずはこの会場に慣れる為、10分程会場の中央で踊ることになった。


ここ数日間、瑠華と練習する暇はなかったが、足を引っ張りたくない一心で家に帰ってひたすら練習した甲斐がある。前回よりもだいぶミスなくこなすことができた。


これはあくまで出し物の練習と言うこともあって瑠華と手を繋いでも変な緊張がないのも良い。


………と思ったが、


「部長、少しの間でだいぶ上達しましたね」と瑠華に言われたときドキューン!と心臓が変な風になった。やっぱあくまで出し物の練習だとしても瑠華とこうやってくっついていられるの―――嬉しいよ。


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