Fahrenheit -華氏- Ⅲ

夜19時ちょうど、四人でタクシーを拾いマルーナホテルへ到着すると、正面玄関入り口でスーツ姿の香坂さんが手を振っていた。


「神流部長、柏木さーん」相変わらずパワフルだな香坂さんは。


香坂さんに連れられてチェックインのカウンターに向かい、従業員の誰かと何かを喋るとそこから上司と思われる男が出てきた。年齢は50代前後。少し痩せぎすで村木と雰囲気が似ている。


「責任者の向田(むこうだ)です。時間は二時間。それ以上はお貸しできませんのでよろしくお願いします。細かい規約などはこの書類に示してありますのでお目通しを、最後にサインをお願いします」


ホテルマンだと言うから愛想がいいものを想像していたが、想像に反してやけに機械的だった。


「神流物流の柏木です。この度はご無理を言って申し訳ございません」瑠華が丁寧に頭を下げると向田と言った男はここになってようやく柔和な笑顔を浮かべた。女には弱いってか?って言うかこんな極上の美女が出てきたら誰でもそうなるよな。


俺は規約にざっと目を通し、乱暴にサインをするとその向田と言うホテルマンに押し付けてやった。


瑠華に色目使ってンじゃねーよ、このやろ。


「それでは私はこれで。練習頑張ってください」と事情を知っている香坂さんはガッツポーズ。香坂さんとはその場で別れ、俺たちは向田とは別のホテルマン(こちらはいくらか人当たりがいい)に案内され最上階の会場へと案内された。


ここに来たのは初めてじゃないが、いざ自分が催す側になると思うと妙に緊張する。


会場はこのホテルの一番広いと思われる場所で俺たちがダンスを踊るひな壇を除くと、約5~6人席の円卓が80名~100名程並ぶぐらいの圧倒的広さ。このホテルの売りである高層からの夜景も見事なものだったが、この日は生憎だが今からでも雨が降ってきそうな曇天模様。


その夜景を誤魔化すかのように今は会場全体に照明が点してあるが、本番は舞台にだけ当たるようになっている。


昨年も来た筈だが、今回は見る側だけではなく披露する側だろうからか、思わず圧倒される。が、瑠華は慣れているのか或いは自分の挙式がもっともっと広さがあったのだろうか、それともこうゆう場でのパーティーに慣れているのか特に驚いた様子もなく


「いい会場ですね」と簡潔な感想を述べていて、しかも「当日は裸足で踊るので、部長も靴を脱いでください。靴下も」と言って瑠華はさっさとお気に入りのDIANAのパンプスを脱いでいる。


練習の為か、瑠華の服装は白いひざ丈のフレアスカートに黒いタートルネックと言うシンプルなものだった。


佐々木はスマホの録画用の動画セットをしていて、ついでに言うと瑠華のスマホにダウンロードしたダンスの曲もセットしている。瑞野さんはどうすればいいのか分からないと言った感じで佐々木の横から佐々木の動作を眺めていた。


よし!練習開始だ!

< 798 / 833 >

この作品をシェア

pagetop