Fahrenheit -華氏- Ⅲ
瑠華とする何か月ぶりのキスは酷く緊張した。初キスですらこんなに緊張しなかったのに、瑠華と最初にキスをしたときと―――その感覚は酷く似ていた。
「部……」
瑠華が戸惑いながら俺を押しのけようとする。
けれど俺は瑠華の頬を包む手に力を入れると、自分の方へまっすぐ顔を向かせた。
~♪Both a little scared Neither one prepared
(2人とも怖れ、心の準備はできていない)
少し離れた場所で瑠華のスマホから再生される音楽を耳に通しながら俺は瑠華をまっすぐに見つめた。瑠華は戸惑ったように口を僅かに開けひたすらに目を瞬いている。
「逃げないで。
俺を見て。
今だけは―――
嫌なら平手打ちでも何でも甘んじて受け入れる」
~♪Ever as before Ever just as sure
(けれど、前からずっと確かに感じていた)
再びキスをすると瑠華は最初、俺の胸を押しやろうとしていたものの、やがて俺の頬にその白い手がゆっくりと伸びてきた。平手打ちを覚悟していたが、瑠華も俺の頬を両手で包むと俺の口づけに応えてくれた。
瑠華――――
そうやって―――何度口づけを交わしたであろう。何度も何度も角度を変え、お互い息遣いすら惜しむように貪るように、激しく
求めあった。
愛してる。
口づけの合間、俺は心の中で何度も瑠華に囁いた。
愛して―――
ゴトッ……
何かが落ちる音ではっとなり、俺たちは唇を離した。
音が鳴った方を見上げると段のあるステージの上で瑞野さんが片手で口元を押さえて目を開いてもつれあうようになった俺たちを見下ろしていた。
コロコロ…と転がってきたものが俺の足に当たり、それが瑞野さんが用意してくれたペットボトルのお茶だと言うことに気づいた。
もう一本、瑞野さんのフラットなヒールのバレエシューズの下転がっている。