Fahrenheit -華氏- Ⅲ

サイテーだ、と思いながら俺は怪我をしていない方の手をそっと差し伸べ、瑠華の頭を撫でた。相変わらず手入れの行き届いたサラサラの髪が掌に当たり前のように馴染む。


「ごめんな、心配かけて。ごめんな―――」


俺は何も考えず瑠華の頭を抱き寄せていた。久しぶりに抱きしめる瑠華の小さい頭はすっぽりと俺の胸の中。


俺の大好きな体温、香り。


瑠華は俺の胸の中涙を流しながら鼻をすすっている。


「瑠華―――」


「今、顔を上げられません。涙でメイクが崩れちゃってきっと酷い顔してる」


「元がいいんだから気にすることないし、俺は―――瑠華の顔を見たい」


瑠華―――






瑠華






俺は心の中で何度も愛しい人の名前を呼んで瑠華の顔を上に向かせると、彼女の両頬を掌で包んだ。メイクが崩れてると言ったがそれは酷いものじゃなく、整った顔に涙が溢れていただけだった。瑠華の頬は冷え切っているかと思ったが泣いたせいか、ほんの少し温かった。


「あ……あたしを置いて先に逝っちゃったら……ゆ……許しませんよ。末代まで祟ってやりますから…」


末代まで??どこで覚えたんだか、その言葉……


「それはこっちの台詞」


瑠華が自傷行為をする度、何度肝が冷えたか。でもこんな冗談言い合えるこの瞬間、大事にしたいよ。


俺は柔らかく微笑んで、ふとカーテンが開いた病室の窓の外に目を向けた。そこは白い綿あめのようなものがちらちらと舞い落ちていた。





「冷えると思ったら……雪が降ってきた……ホワイトクリスマス」




瑠華とはどんな形であろうとクリスマスイブを過ごせないと思ってたから、こんな奇跡的に雪が降ってそこがどんな場所でもロマンチックな場所に思えてきて、思わず涙さえ浮かんできた。

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