Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そのままユーリの隣で眠る気になれなかった。
あたしはクローゼットを開けると、ハンガーポールに吊るしてある自分の着てきたワンピースを手に取り、ガウンとキャミワンピをその場で脱いだ。まるでセミの抜け殻のようになったその哀れな姿を心音には見せられない。ワンピースに着替えてナイトウェアをきれいに畳むとそれをベッドの端に置いた。
「ごめんね、心音。せっかく気遣ってくれたのに」
そしてユーリにも謝った。
「ユーリ、一緒に居たかったけれどごめんね、ママ行かなきゃ」
小さく謝ってユーリの額にキスを落としあたしが主寝室から出ると、マックスはまだリビングで一杯やっている最中だった。できればこの男の顔を見ずに帰りたかったのだが。
「What's the matter with you? Don't tell me you're leaving now?
(着替えてどうしたの?まさか今から帰る気?)」とマックスが目をまばたく。ティムは黙ったまま手を組んでユーリの寝室の前で立っている。
「Yeah, it's urgent. If you'll excuse me.(ええ、急用ができて。失礼するわ)」
「What could be more important than your precious July?
(君の大事なユーリより大事な用なのか?)」真剣な目で聞かれて、あたしは同じだけ真剣に頷いた。
マックスは出ていこうとするあたしを引き止めなかった。
「I'll take you.(送って行こう)」とティムが言い出したがそれは断った。
「If something happens to Yuri, it's not good. You stay with her. We'll be in touch.
(ユーリに何かあったら大変。あなたがついててあげて。また連絡する)」これじゃどちらが父親なのか分からない会話だ。
部屋を出ていこうとしようとしたとき、ひときわ強く
「Ruka.(瑠華)」
とマックスに呼び止められた。
まだ何か?もう話の決着はついている。と言う意味で振り返ると
「We'll stay here until New Year's. If you want to see Yuri, you can and should come anytime.
(俺たちはニューイヤーまでここで過ごす。ユーリに会いたくなったらいつでも来ていいし、来てほしい。
Countdown, why don't the three of us as a family?
(カウントダウン、家族三人でしないか?)」
カウントダウン―――?