Fahrenheit -華氏- Ⅲ
記事がUPされていたのは今から4時間程前の9時ごろ。
今は夜中の一時。
悪いと思ったがあたしはベッドを抜け出すと思わず葵さんに電話をしていた。
葵さんは仕事も終わったのかすぐに電話に出てくれた。
『ルカちゃん!♪』華やいだ声が聞こえてきて思わず苦笑い。
「お疲れ様です、お仕事は終わりましたか?」声が潜まるのはユーリを起こしてしまわぬように。
『いや、まだ~今休憩中~』
あら、それはまた間が良いのか悪いのか。
『クリスマスイベントってさ、キャバクラにとっては一大イベントなんだよね。もう皆盛り上がっちゃあって大変』
葵さんは全然”大変”そうじゃない口調で言ってあたしは思わず苦笑い。
こういうひとなのだ、葵さんは。
「ところで瑞野さ……ミミちゃんのSNSはご覧になられましたか?」
『うん、タイムラインで流れてきたから。空汰から速攻で電話が掛かってきてさー、大変だった』
今度の”大変”はキャバクラの”大変”よりリアルに感じた。
『てか俺だって知らなかったんだよ?でもハッシュタグ見た?都内の五つ星ホテル。てかルカちゃんはどこにいるの?』
「私も場所は違いますが五つ星ホテルです。友人と一緒です」嘘ではない。ティムは友達に違いないのだから。
『みんなリッチだな~、俺なんててんやわんやなのに』
「お気持ち、お察しします」
『てかミミちゃんもさー、これみよがしだよなぁ?ぜってー空汰が泊まれなさそうな場所わざわざ選んでサ』
「女の見栄でしょう」
そう、単なる見栄だけならいいのだが―――
何だか嫌な予感がする。
啓――――
いやだよ、あたし以外の女とホテルに―――
人のこと言えた立場じゃないが。
それでも何もないことを願うことしかない。
あたしは星屑のようなイルミネーションが散らばる東京の街並みを見下ろした。
その夜景は涙で滲んで酷く歪んで見えた。