真昼の星空
「ようちゃん、今日お昼食べられたの?」

並んで歩きながら、雅人が何気ないふうに聞いた。

「先輩に捕まってるって聞いたから」

陽は少し目を丸くして、それから笑った。

「食べれらなくて、今ユリに付き合ってもらって食べてきたの」

楽しそうに続ける。

「なんと、ユリは二回目のランチ」

雅人は思わず吹き出した。

「すごいな」

「でしょ?」

陽もつられて笑う。

夕方の道に、やわらかな空気が流れていた。

雅人は少し間を置いて尋ねる。

「先輩って、何の話だったの?」

「ミスコン出ないかって」

やっぱりか、と雅人は心の中で思う。

去年も誘われていたと聞いたばかりだった。

「どうするの?」

「ずっと断ってるよ」

陽は即答した。

「私さ、けっこう頑張ってこの大学入ったの」

その声は、いつもの明るさの中に少しだけ真面目さが混じっていた。

「だから授業難しくて、人より頑張らないとついていけないの」

少し肩をすくめる。

「だから余計なことやってる暇ないんだ」

そう言って、いつものように笑った。

雅人はその横顔を見ながら、胸の奥が静かに熱くなる。

綺麗で、誰からも好かれて、何でも器用にこなせそうなのに。

見えないところで、ちゃんと努力している。

そういうところまで、好きだった。

陽がふいに顔を上げる。

「まさとくんは、なんでここだったの?」

雅人は少しだけ考えた。

「本命、落ちちゃって」

言いづらそうに笑う。

すると陽は足を止めかけた。

「え? 慶応滑り止めなの?」

目を見開いたまま、雅人を見る。

「やばい、天才!」

そのまま身を乗り出す。

「てことは東大とか京大受験したの?」

雅人は照れくさそうに笑った。

「そうだね。東大だけ落ちた」

陽はしばらく黙って雅人を見つめ、それから声を上げた。

「すご……」

「でも落ちたから」と笑った

尊敬と驚きがそのまま顔に出ていた。

雅人はそんな陽の反応が、少し嬉しかった。

陽がふいに立ち止まり、思いついたように続けた。

「まさとくんさ」

雅人が振り向く。

「優しくて、かっこよくて、オシャレで、友達もたくさんいて、頭も良くてさ」

指を折るように数えながら、無邪気に言葉を重ねていく。

「海外ひとりで行けて、写真も上手くて……もう完璧じゃん」

屈託のない笑顔だった。

雅人は、言葉を失った。

そんなふうに見ていてくれたのか。

ただ胸が熱くなって、何を返せばいいのかわからない。

このまま別れたくない。

そう思った瞬間、口が先に動いていた。

「ようちゃん、これから星見に行かない?」

陽が目を丸くする。

「星?」

「うん」

雅人は少し笑って言った。

「スカイツリー行こう」

陽の返事を待たずに、照れ隠しのように駅へ向かって歩き出す。

後ろから、楽しそうな声が追いかけてきた。

「私、スカイツリー初めて」

無邪気に着いてくる足音が、やけに嬉しかった。
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