真昼の星空

最終話

大学の同期達と再会を果たした夜の帰り道

陽が夜空を見上げている。

冬の空気は澄んでいて、
街の灯りの向こうに、小さな星がいくつも瞬いていた。

雅人が隣で小さく笑う。

「ようちゃん、まだ星に願い事してるの?」

陽も空を見たまま、くすりと笑った。

「もうこれは癖みたいなものだね。星が見えると、どうしても」

その横顔を見つめながら、
雅人が少し遠慮がちに聞く。

「今は何を願ってるの?」

陽はすぐには答えなかった。

静かな沈黙。
遠くを走る車の音だけが微かに聞こえる。

やがて陽が、小さな声で言う。

「もう、この何年も同じ事しか願ってないよ」

雅人が黙ったまま続きを待つ。

陽は星を見上げたまま、静かに笑った。

「まさくんが今、幸せでありますように」

「……え?」

雅人が驚いたように陽を見る。

陽は少しだけ困ったように笑う。

「私の心は私だけの物だから。星にお願いごとする時は、嘘つかないの」

夜風が髪を揺らした。

「二度と会えなくても。まさくんに恋人がいたとしても。結婚してたとしても」

そこで一度言葉を切り、
陽はゆっくり息を吐く。

「まさくんの幸せだけを、ずっと願ってたよ」

「……ようちゃん……」

雅人の声が震える。

気づけば、雅人は泣いていた。

堪えようとしても溢れてしまうみたいに、
静かに涙が頬を伝っていく。

それを見た陽も、
「なに泣いてるの」と笑おうとして、
結局もらい泣きみたいに涙を滲ませた。

そして少し笑いながら言う。

「あ、でも最近は」

雅人が涙のまま顔を上げる。

陽は泣き笑いみたいな顔で、星を見上げた。

「また会えました。ありがとうって」

陽は星空を見上げたまま、
ふっと小さく息を吐いた。

「……まさくんは幸せだった?」

静かな声だった。

「嫌なこととか、辛いこととか起きなかった?」

雅人は少しだけ考えるように黙り込む。

冷たい夜風が二人の間を通り過ぎていった。

やがて、雅人はゆっくり口を開く。

「ようちゃんに会えないことが、いちばん辛かった」

その言葉に、陽の睫毛がわずかに揺れる。

雅人は少し笑った。

「だけど、会えなかった間もようちゃんが俺のこと思ってくれてたって分かったら」

空を見上げる。

「なんか、全部報われた」

その声は穏やかで、
長い時間をやっと越えられた人の声だった。

「また会えて、今またこうして一緒に居られるし」

そして、陽の方を見て笑う。

「ようちゃんが願うと、叶っちゃうんだな」

陽は照れたように小さく笑った。

少しだけ肩をすくめながら聞く。

「……じゃあ、次の願い事は?」

雅人が尋ねる。

陽はうーん、と小さく考えてから、
困ったように笑った。

「もう、まさくんと一緒にいられてるから」

夜空を見上げる。

「特にないかな」

その言葉は、
どんな願い事よりも満たされていて。

冬の星空だけが、
静かに二人を見下ろしていた。
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