気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



テラスへ出ると、昼間の熱気は少しだけ落ち着いていた。

それでも、コンクリートにはまだ夏の暑さが残っている。

夜風がふわっと吹いて、髪が揺れた。


「気持ちいい」


茉尋が空を見上げる。

昼間は真っ青だった空も、今は深い紺色に変わっていた。

遠くには街の明かりが広がり、時々電車の走る音が聞こえてくる。


「じゃあ準備するか」


柊弥さんが物置から大きな袋を取り出した。

中には色とりどりの花火がぎっしり入っている。


「こんなにあるの!?」

「去年買いすぎた」

「柊弥がね」


希遥さんがすかさず言う。


「希遥が『まだ足りない』って言ったんだけど?」

「あれ?」

「忘れたの?」

「うん」

「都合いいなぁ」


みんなが笑う。


想くんはバケツに水を入れ、静かにテラスへ運んできた。


「ここ置いとく」

「ありがとうございます」

「火のついた花火はちゃんとここな」

「はーい」

「返事だけにならないように」

「はい」


茉尋が少し姿勢を正す。

そんな様子を見て、想くんは小さく頷いた。


「よし」


ライターを手にした柊弥さんが、みんなを見回す。


「最初は誰から?」

「はい!」


真っ先に手を挙げたのは希遥さんだった。


「子どもか」


想くんが呆れたように言う。


「花火は何歳になってもテンション上がるの!」

「それは分かるかも」


私が笑うと、茉尋も嬉しそうに頷いた。


「俺も早くやりたい」


5人が自然と輪になる。

今日が、夏休み、東京で茉尋と過ごす最後の夜。

この時間が、もう少しだけ続けばいいのに。

そんなことを思いながら、柊弥さんがライターに火をつけた。

< 104 / 196 >

この作品をシェア

pagetop