気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
テラスへ出ると、昼間の熱気は少しだけ落ち着いていた。
それでも、コンクリートにはまだ夏の暑さが残っている。
夜風がふわっと吹いて、髪が揺れた。
「気持ちいい」
茉尋が空を見上げる。
昼間は真っ青だった空も、今は深い紺色に変わっていた。
遠くには街の明かりが広がり、時々電車の走る音が聞こえてくる。
「じゃあ準備するか」
柊弥さんが物置から大きな袋を取り出した。
中には色とりどりの花火がぎっしり入っている。
「こんなにあるの!?」
「去年買いすぎた」
「柊弥がね」
希遥さんがすかさず言う。
「希遥が『まだ足りない』って言ったんだけど?」
「あれ?」
「忘れたの?」
「うん」
「都合いいなぁ」
みんなが笑う。
想くんはバケツに水を入れ、静かにテラスへ運んできた。
「ここ置いとく」
「ありがとうございます」
「火のついた花火はちゃんとここな」
「はーい」
「返事だけにならないように」
「はい」
茉尋が少し姿勢を正す。
そんな様子を見て、想くんは小さく頷いた。
「よし」
ライターを手にした柊弥さんが、みんなを見回す。
「最初は誰から?」
「はい!」
真っ先に手を挙げたのは希遥さんだった。
「子どもか」
想くんが呆れたように言う。
「花火は何歳になってもテンション上がるの!」
「それは分かるかも」
私が笑うと、茉尋も嬉しそうに頷いた。
「俺も早くやりたい」
5人が自然と輪になる。
今日が、夏休み、東京で茉尋と過ごす最後の夜。
この時間が、もう少しだけ続けばいいのに。
そんなことを思いながら、柊弥さんがライターに火をつけた。