気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
朝食を食べ終え、私はマグカップをシンクへ運んだ。
「洗っとくよ」
希遥さんが食器を受け取ってくれる。
「ありがとうございます」
その間に、想くんは静かに立ち上がった。
「大学行く」
時計を見る。
まだ家を出るには少し早い時間だった。
「あ、想くん」
思わず声をかける。
想くんが振り返る。
「……昨日のことなんだけど」
そこまで言った時だった。
「やばい!」
希遥さんの声がリビングに響く。
「パン焦げた!」
「あっ!」
慌ててトースターへ駆け寄る希遥さん。
少し焦げた匂いが部屋中へ広がる。
「もー!」
「ちょっと目離しただけなのに!」
柊弥さんが苦笑しながら皿を差し出した。
「はい、新しいの焼こう」
「ありがとうございます……」
一気にリビングが慌ただしくなる。
その隙に、想くんはリュックを肩へ掛けた。
「先行く」
「あ……」
引き止める間もなく、玄関のドアが閉まる音がした。
静かになったリビングで、私は小さく息を吐く。
「タイミング悪かったなぁ」
ぽつりと呟く。
「あとで話せばいいよ」
柊弥さんが穏やかに笑う。
「想も逃げてるわけじゃないから」
「そう、ですよね」
そう返事をしながらも、胸の中には少しだけ引っかかるものが残った。
昨日から、どこか距離を感じる。
私、何かしちゃったのかな。
そんなことを考えながらコートを羽織り、玄関へ向かう。
ドアを開けると、冬の冷たい空気が頬をかすめた。
門の前には、もう想くんの姿はない。
私はその背中を探すように一瞬だけ辺りを見回してから、小さく首を振った。
「……大学で話せるといいな」
そう呟いて、家をあとにした。