気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
心の蕾[So side]
夜。
自室の机には、いつものように建築の資料が広がっていた。
けれど今日は、いつもみたいに集中できなかった。
ペンを置く。
窓の外を見る。
庭の桜の木。
まだ蕾のまま。
でも、数日前より、少しだけ膨らんでいる気がした。
「……」
今日のことを思い出す。
公園で桜を見たこと。
茉桜が笑っていたこと。
「楽しかった」と言った顔。
最初は。
ただ気になっただけだった。
同じ家に住んでいるから。
放っておけなかったから。
そう思っていた。
でも違った。
風邪を引いた時。
熱で苦しそうな顔を見た時。
怖がっている姿を見た時。
笑っている姿を見た時。
いつも思っていた。
この子が笑っていられるなら、それでいい。
「……好き、か」
口に出してみる。
不思議なくらい、もう否定する気にはならなかった。
問題は。
茉桜がどう思っているか。
あいつは優しい。
誰にでも優しい。
だから俺が気持ちを伝えたら、困らせるかもしれない。
それが怖かった。
でも、今日。
「想くんって、たまにすごく優しいこと言うよね」
そう言って笑った顔。
「これからも笑ってればいい」
あの時、本当にそう思った。
もう、傷付いてほしくない。
泣いてほしくない。
でもそれだけじゃない。
俺は、茉桜の隣にいたい。
守るだけじゃなく。
一緒に笑いたい。
その時。
コンコン。
ドアが鳴った。
「想?」
「……柊弥?」
ドアを開けると、柊弥が少し笑って立っていた。
「顔に出てる」
「何が」
「決めた顔してる」
何も言わずにいると、柊弥は小さく息を吐いた。
「言うの?」
「……うん」
もう迷わなかった。
「ちゃんと伝える」
柊弥は満足そうに笑う。
「そっか」
「想らしくていいと思う」
静かな部屋。
窓の外には、もうすぐ咲く桜。
俺は初めて、誰かのためじゃなく。
自分のために一歩踏み出そうと思った。