気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -

桜が咲く前に



朝食を終えると、希遥さんが庭へ出て行った。


「桜、昨日より蕾大きくなってない?」


その声につられて、私も窓の外を見る。

庭の桜の木。

まだ満開ではない。

でも、確実に春へ向かっている。


「本当だ」

「もう少しだね」


柊弥さんが笑う。

その時。


「茉桜」


振り返る。

想くんが立っていた。


「少し、いい?」

「え?」

「行きたいところがある」


昨日も聞いた言葉。

でも。

今日は少しだけ違って聞こえた。


「どこ?」

「……桜」

「また?」


思わず笑ってしまう。

想くんは少しだけ目を逸らした。


「嫌?」

「ううん」

「行きたい」


そう答えると。

想くんの表情がほんの少しだけ柔らかくなる。


「じゃあ行くか」


2人で家を出る。

冬の冷たい風とは違う。

少し暖かい春の風。

歩く速度も、会話の量も。

前とは違っていた。


「想くん」

「ん?」

「前はさ」

「何」

「想くんって、何考えてるか分からなかった」

「……」

「今も全部は分からないけど」


少し笑う。


「前より分かるようになった気がする」


想くんは黙って歩く。

でも、嫌そうではなかった。


「俺も」

「え?」

「茉桜のこと」


足を止める。

想くんも立ち止まった。


「最初は分からなかった」

「何を?」

「無理して笑ってること」

「……」

「大丈夫って言いながら、大丈夫じゃないこと」


春の風が吹く。

桜の枝が小さく揺れた。


「でも今は」


想くんが私を見る。


「分かるようになった」


その言葉だけで。

胸がいっぱいになる。


「ありがとう」


そう言うと。

想くんは少し困った顔をした。


「またそれ」

「だって」

「……」


少し間を置いて。


「礼はいらない」

「……その代わり」

「これからも、俺の隣にいて」

「え?」


心臓が大きく跳ねた。


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