気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「これからも、そのままでいてほしい」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が大きく揺れた。
「……そのまま?」
聞き返すと、想くんは少しだけ視線を逸らした。
「今みたいに笑って、楽しそうにして」
静かな声。
「それで」
少し間を置いて。
「俺の隣にいてくれたらいい」
心臓が跳ねる。
「……それって」
言葉にしようとして。
でも、怖くなった。
聞いてしまったら。
今までの関係が変わってしまう気がした。
「想くん」
「ん?」
名前を呼ぶと、想くんがこちらを見る。
「どうして、そんなに優しいの?」
ずっと聞きたかったことだった。
最初は怖かった。
冷たそうで、必要以上に関わらない人だと思っていた。
でも、本当は違った。
困っている時は助けてくれる。
無理している時は気付いてくれる。
何も言わなくても、隣にいてくれる。
想くんは少し黙った。
「……分からない」
「え?」
「前は」
「誰かのことをそんなに考えることなんてなかった」
桜の枝を見上げる。
「でも」
「茉桜のことは気になる」
その一言だけで。
胸がいっぱいになる。
「帰りが遅いと心配になる」
「元気ないと分かる」
「笑ってると安心する」
想くんが私を見る。
「……自分でも、よく分からない」
少し困ったように笑った。
「でも」
「大事だと思ってる」
その言葉に。
息をするのを忘れそうになった。
大事。
その言葉が、何より嬉しかった。
「私も」
気付けば口にしていた。
「想くんがいると安心する」
想くんの目が少しだけ開く。
「最初は怖かったけど、今は」
小さく笑う。
「想くんが帰ってくる音、分かるくらい」
「……」
言った後で、急に恥ずかしくなる。
「今の忘れて」
「無理」
即答だった。
思わず顔を見る。
想くんは少しだけ笑っていた。
「……笑った」
「何」
「今、笑ったよね?」
「気のせい」
「またそれ」
2人で笑う。
まだ。
好きとは言っていない。
でも。
もう、前の私たちには戻れない気がした。
咲く前の桜みたいに。
まだ名前のない気持ちが。
ゆっくりと膨らんでいた。