気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「帰らないの?」
「ん」
「そう……なんだ」
少しの沈黙。
キーボードを打つ音だけが、静かなリビングに響く。
それから。
「帰る理由、ないし」
想くんは、少し間を空けてそう言った。
あまりにも普通の声だったから、
思わず「そっか」って返しそうになった。
でも。
なんとなく。
その言葉の先は聞いちゃいけない気がした。
私には、帰る家がある。
お母さんがいて、お父さんがいて、兄弟がいて、久しぶりに帰れば、「おかえり」って言ってくれる。
帰る理由なんて、考えたこともなかった。
だから、想くんの言葉を、私はうまく理解できない。
「そっか」
結局、それしか言えなかった。
想くんも、それ以上何も言わない。
パソコンに向き直って、いつも通りの無表情。
でも、ほんの少しだけ。
いつもより、遠くにいるような気がした。
私は麦茶を一口飲む。
冷たくて、美味しい。
ゴールデンウィーク。
楽しみなはずなのに。
どうしてか、帰らないって言った想くんのことが、少しだけ気になった。