気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
駅までの道。
キャリーケースのタイヤが、がらがらと音を立てる。
空はよく晴れていた。
春と初夏の間みたいな風が吹いている。
暑すぎず、寒すぎず。
帰省にはちょうどいい天気。
電車に乗って、乗り換えて、窓の外の景色が少しずつ見慣れたものに変わっていく。
住宅街。
小学校。
子どもの頃、よく遊んだ公園。
「あ〜、帰ってきた」
思わず声が漏れた。
横浜の海沿い。
潮の匂いが少しだけ混ざった風。
駅前のパン屋さん。
変わらない景色。
やっぱり、地元は落ち着く。
改札を抜けると、
「あ!」
聞き慣れた声。
「茉桜!」
お母さんだった。
「迎えに来てくれたの!?」
「当たり前でしょ〜!」
久しぶりに会ったお母さんは、少しだけ髪が短くなっていて、でも、相変わらず元気だった。
「おかーえり」
「ただいま!」
「ちょっと痩せたんじゃない?」
「そう?」
「ちゃんと食べてる?」
「食べてるよ」
「シェアハウスってご飯どうしてるの?」
「みんなで作ったり、各自だったり」
「へぇ〜。シェアハウスってお母さんからしたらよく分からない世界だな〜」
キャリーケースを引いてもらいながら歩く。
こういう会話。
久しぶり。
家に着くと、
「姉ちゃん!」
リビングから、弟の茉尋(まひろ)が顔を出した。