気付けば、隣にいた - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -
「ただいまー」
聞き慣れた声。
柊弥だった。
どうやら大学から帰ってきたらしい。
靴を脱ぐ音。
荷物を置く音。
それからテラスの方を見たんだろう。
「あれ?茉桜、何してんの?」
「柊弥さん!」
助かった、みたいな声。
やっぱりあいつは分かりやすい。
「シーツ干そうと思ったんですけど届かなくて……」
「あー」
柊弥が笑う。
そして何の躊躇もなくテラスへ向かった。
「貸して」
「すみません!」
「いやいや」
ひょい、と。
本当にひょい、と。
柊弥がシーツを持ち上げる。
数秒後には綺麗に物干し竿へ掛かっていた。
「うわ、すご」
「凄くはないでしょ」
「私、10分くらい格闘してたんですよ」
「背伸びしてたもんな」
「見てたんですか!?」
「家の前から見えた」
茉桜が恥ずかしそうに顔を覆う。
その様子を見て、柊弥が笑う。
相変わらずだな、この2人。
昔から知り合いだからか、気を使っている感じがほとんどない。
俺はキッチンに戻る。
さっき置いたコップを手に取った。
別に。
最初から手伝うつもりなんてなかった。
テラスから聞こえてくる笑い声。
風に揺れるシーツ。
よく晴れた休日。
アイスコーヒーを飲みながら、その光景をぼんやり眺めた。