ハートのラテアートは勘違いじゃなかったらしい。



「お待たせしました」

いつものように、彼が受け取り専用のカウンターに来た。

トレーに乗ったカップを見て、思わず息をのむ。

「わぁ、可愛い!」

ふわりと浮かぶ、ハートのラテアート。

繊細で、綺麗で。
思わずそのまま見つめてしまう。

「ありがとうございます」

彼が、照れたように笑った。

――そして。

視線を少し落とすと、ぽつりとつぶやく。

(みどり)、さん……」

「え!?」

突然名前を呼ばれて、思わず目を見開いた。

「あ、すみません、その……」

彼も、驚いたように口元を手で覆う。

視線を追って自分の胸元を見ると、首から下げた社員証が。

(あ……)

名前を知られたことが、妙にむず痒い。
しかも、下の名前だけ呼ばれたことに照れてしまう。

顔を上げると、 彼も気まずそうに笑った。

「……熱いので、気をつけてくださいね」

声はいつも通りなのに。
やわらかな空気感が残っている。

私はぎこちなくお礼を言って、トレーを持ち上げた。

(飲むのがもったいないな)

ずっと眺めていたい。

席に着いたら、写真を撮ろうと決める。

トレーを持って席へ向かおうとしたときに、
背後から「大胆だね~」と先輩店員の声が聞こえた。

振り返ろうとした瞬間、カフェラテが揺れた。

——崩れそうで、慌てて動きを止める。

前に注文していた人のカップが横目に入った。

(あれ?)

そこに描かれていたのは、リーフの模様だった。

自分のカフェラテに目がいく。

(こっちは、ハート……)

じっと見ていると、頬も胸も熱くなってくる。

でも、小さく首を横に振った。

(全部、たまたまだよ)

意味なんて、きっとない。

それでも。自然と口元が緩んでしまった。

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