ハートのラテアートは勘違いじゃなかったらしい。
✴
「お待たせしました」
いつものように、彼が受け取り専用のカウンターに来た。
トレーに乗ったカップを見て、思わず息をのむ。
「わぁ、可愛い!」
ふわりと浮かぶ、ハートのラテアート。
繊細で、綺麗で。
思わずそのまま見つめてしまう。
「ありがとうございます」
彼が、照れたように笑った。
――そして。
視線を少し落とすと、ぽつりとつぶやく。
「翠、さん……」
「え!?」
突然名前を呼ばれて、思わず目を見開いた。
「あ、すみません、その……」
彼も、驚いたように口元を手で覆う。
視線を追って自分の胸元を見ると、首から下げた社員証が。
(あ……)
名前を知られたことが、妙にむず痒い。
しかも、下の名前だけ呼ばれたことに照れてしまう。
顔を上げると、 彼も気まずそうに笑った。
「……熱いので、気をつけてくださいね」
声はいつも通りなのに。
やわらかな空気感が残っている。
私はぎこちなくお礼を言って、トレーを持ち上げた。
(飲むのがもったいないな)
ずっと眺めていたい。
席に着いたら、写真を撮ろうと決める。
トレーを持って席へ向かおうとしたときに、
背後から「大胆だね~」と先輩店員の声が聞こえた。
振り返ろうとした瞬間、カフェラテが揺れた。
——崩れそうで、慌てて動きを止める。
前に注文していた人のカップが横目に入った。
(あれ?)
そこに描かれていたのは、リーフの模様だった。
自分のカフェラテに目がいく。
(こっちは、ハート……)
じっと見ていると、頬も胸も熱くなってくる。
でも、小さく首を横に振った。
(全部、たまたまだよ)
意味なんて、きっとない。
それでも。自然と口元が緩んでしまった。