繋ぐ手は何度でも

海に沈める

キャビネットの上に無造作に放り投げていた封筒が視界の端に映る。



あぁ、と思い出した。



ー結婚式の招待状だー



届いてからもう一週間近くが経っている。



そろそろ返事くらいはしないといけないだろう。



ソファから立ち上がり、封筒を手に取る。



並ぶ《出席》と《欠席》の文字。



迷うことなく《欠席》を黒い丸で囲んだ。



理由なんて分かりきったことだ。



書いたところで、惨めになるだけなのだから。



しばらく返信葉書を見つめたあと、ゆっくりと封筒へと戻した。



行かなければな。

ポストへ投函しに。



『ご結婚おめでとうございます』



そんな、



欠片も思っていない言葉を書き添えた封筒を持ち上げる。



ーーーーーーー



コトリ、と音を立てて、白いそれを真っ赤なポストが飲み込んだ。



同時に、線を引かれた気がした。



もう、彼は戻らないと。



ーーお前は今日から独りなんだと。





ふぅ、と小さく息を吐く。



胸の奥がざわついていた。

これ以上、考え込まないようにしなければ。



「ドライブでもいくか、気晴らしに」



車へ戻りながら、モバイルオーダーでお気に入りのコーヒーショップへ注文を入れる。



いつものようにドライブスルーで受け取って、



それから。



「どこに、行こうか・・・・・・・」



今年はまだ行けていなかった、海辺へのドライブはどうだろうか?



海鮮丼を食べたいな、と。

そんな話を、二人でしていたのだ。



ロックを外し、運転席へ乗り込む。



クラッチとブレーキを踏みこみ、ニュートラルへ入れてから

エンジンを吹かせた。



私の愛車はスポーツカー。



真っ赤なFDは、私に自由をくれた翼のひとつだ。



もう片方は、



”自分の好きなように生きていいのだ”と教えてくれた拓未。



その片翼が、捥がれてしまった。



それなのに。



不思議と今は、まだ痛くなかった。



ビルの中を走り抜け、ハイウェイに乗る。



エアコンなんか点けない



全開にした窓から音を立てて抜ける風が髪を舞い上げる



今はそれが心地よくてたまらない



市街地だと苦情が来そうなまでに上げたボリューム



吹く風に負けない音を響かせるスピーカーから流れてきたのは



彼のお気に入りだった。



「君(FD)まで忘れさせてくれないの?」



走る。走る。ただひたすらに。



何となくで走っていた。

海が見たかったから、見えるならどこでも良かった。



湘南、初めてのドライブデートの場所だ。



海沿いの道で、路肩に車を停めた。。



堤防に飛び上がり一面の青を見た



今日は静かだ。



凪いだ青がざわつく胸を沈めてくれる。



大きく深呼吸をする。



ここに置いていくのだ。



温度を。

香りを。

音を。



私の中に残る貴方を。



この青に。



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