天才と天才

11,事件解決

「え……?」

思わず声が漏れる。

目の前にいたのは、小学校高学年くらいの男の子だった。

少し癖のある黒髪に、大きな瞳。
研修施設に着いたとき、受付の近くで先生の手伝いをしていたのを見た覚えがある。

少年は私に腕を掴まれたまま、悔しそうに唇を噛んでいた。

「離してよ……!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて」

慌てて手を離すと、少年は数歩後ずさる。

陸がしゃがみ込み、目線を合わせた。

「お前が食材を盗ったのか?」

その問いに、少年は俯いたまま小さく頷いた。

「……うん」

「どうして?」

結愛が優しく尋ねる。

少年はしばらく黙っていたけれど、やがてぽつりと呟いた。

「……みんな、どうせ適当に作るだけだから」

「え?」

「毎年そうなんだ」

少年は拳をぎゅっと握る。

「ここで作るカレー、みんなイベントだからって騒いで、失敗して、半分以上残して捨てる」

その声は、怒っているようにも、悲しんでいるようにも聞こえた。

「この施設の畑で育てた野菜なのに……おじいちゃんたちが一生懸命育てたのに」

私たちは顔を見合わせる。

新が静かに口を開いた。

「だから材料を隠したのか」

「……うん」

少年はこくりと頷いた。

「みんなに適当に使ってほしくなかった」

沈黙が落ちる。

その時、美琴が一歩前に出た。

「あなたの気持ちは分かります」

少年が顔を上げる。

「ですが、勝手に盗むのは間違っています」

まっすぐな言葉だった。

少年は肩を落とす。

「……ごめんなさい」

その空気をふっと和らげたのは、蒼真だった。

「じゃあさ」

眠たげな目を細めながら、ゆるく笑う。

「ちゃんと美味しく作ればいいんじゃない?」

「え?」

「俺らが本気で作って、ちゃんと全部食べる。それで解決」

陸もにっと笑う。

「いいじゃん、それ!俺料理番組で覚えた隠し技あるし!」

「絶対怪しいんだけど……」

結愛が苦笑する。

私は少年に向かって手を差し出した。

「一緒に作ろう?」

少年は目をぱちぱちさせた。

「……僕も?」

「うん。畑のことを一番知ってるんでしょ?だったら、美味しく作る方法も知ってるはず」

しばらく迷っていた少年だったけれど、やがてそっと私の手を取った。

「……陽斗(はると)」

「え?」

「僕の名前。白石陽斗」

そう言って、少しだけ笑った。

こうして“カレー材料消失事件”は解決。

私たちは陽斗と一緒に調理場へ戻り、改めてカレー作りを始めた。

陽斗の指示は的確だった。

野菜を切る順番。
火加減。
煮込むタイミング。

新が理論的に工程を整理し、美琴が正確に火を管理し、結愛が手際よく盛り付け、陸が場を盛り上げ、蒼真が味見を担当する。

そして私は、みんなを繋ぐように動き回った。

そうして完成したカレーは——

驚くほど、美味しかった。

「うまっ!」

陸が目を輝かせる。

「これは……かなりの完成度」

新まで素直に感心している。

陽斗も嬉しそうに笑っていた。

その時、私は思った。

バラバラだと思っていたこの六人は、案外悪くない班なのかもしれない。
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