パーフェクト・ネイル ~憧れの上司に狙われている、かもしれません~
管理職でないとはいえ、肩書を持つ以上、遠坂はここにいる全員の上司だ。多少なりとも上下関係が発生する以上、自分からは動けない。特に相手が自分になんの好意も抱いていないのなら、下手に動けばハラスメント事案に発展する可能性ある。
「だから相手に警戒されないよう、向こうから惚れるよう仕向けていく……と。さすが、能ある鷹は爪を隠すってやつですかね」
和泉の感嘆に、遠坂が鼻から細い息を漏らす。
「あえて爪を見せる方が効果的かもしれないけどな」
「? どういう意味っすか?」
「内緒」
遠坂の端的な返答を聞くと、和泉が少し呆れたように肩を竦めた。
しかし椛は。――コンビニに行くつもりが、デスクに財布を忘れてしまったことに気づいて引き返してきたばかりに、男性二人の会話を聞いてしまった椛は、柱に隠れたまま固まるしかない。
(ど、どど、どういう意味ですか……!?)
先ほど以上の大混乱に陥る椛は、実は気づいていない。
柱の陰からスカートの裾が見えているせいで、この会話を『聞いている』ことに遠坂が気づいているのも。数日後、最寄り駅で降り損ねるよう誘導されて、そのまま遠坂の家へ誘われることも。
今はまだ、気づかないままだ。
――Fin*


