パーフェクト・ネイル ~憧れの上司に狙われている、かもしれません~
ひらひらと手を振られると、上昇しかけていた体温が急下降する。一気に現実に引き戻される。
――椛は今日も、完全に振り回されているのだ。
◆◇◆
「遠坂主任。営業の谷岡さんから、メールが来てましたよ。『早期対応、感謝します』って」
「……」
女性たちが戻ってくる前にメールを確認した和泉の報告に、いつもなら軽く頷いて返事をするはずの遠坂が、しん……と黙り込む。
その姿を見た和泉は一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を緩めてくすくすと笑い出した。
「俺はいいんですけどね。むしろ主任が優秀なせいか普段あんまり残業なくて、他のチームに申し訳ないと思ってるんで。ただ合コン潰された白川は、知ったら『職権乱用だ』って文句言いそうですけどね」
「……女子には言うなよ」
「もちろん、わかってますよ」
苦虫を噛み潰したような表情を見せる遠坂に、和泉がにこにこと微笑む。
「残業させて合コン潰す、なんてまわりくどいことしなくても、さっさと告ったらいいと思うんですけど?」
和泉の指摘に遠坂の眉がぴくりと動く。だがすぐに身体の力を抜いて、はぁ、と大きく息をつく。
「……上司だから、言えないこともあるんだよ」
遠坂の嘆きを耳にすると、和泉の動きが一瞬止まった。