私のかみさま(改訂版)
「…」



一瞬だけ、浮遊感があったのに
落ちていく感覚がなく

冷たさや痛み、なんの衝撃も感じなかった。


不審に思って、瞑っていた目を開けると
視界に映ったのは、宙に浮く自分の足。



……?



「……若いくせに、身投げときたか」



放心する私の耳もとで
ため息混じりの呆れ声が響く。

緩く首を動かせば
薄暗い視界でも、はっきりと分かるくらいに
整った顔立ちの男の人と視線がぶつかる。

その人は、崖すれすれの場所で
私の両脇に腕をまわして
私が落ちないよう体を支えていた。



「…」



いきなり現れたその人に、目を丸くする。



………この人、どこから…



崖から落ちる直前まで
周囲に確かに人はいなかった。

気配だってなかったのに。



「よっ、と」



羽交い締めの体制のまま
数歩下がって、そっと地面に私を下ろす。



「…」



想定外の出来事に
何も言葉を発する事ができず
ただ呆然と、その人を見上げた。
< 12 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop