私のかみさま(改訂版)
始まった日々
とん、とん、とん


山頂に不器用な音が響く。


空に向かって勢いよく
深緑の葉を広げる大木の木陰で
降り注ぐ強い日差しを退(しりぞ)けながら
私は、社の修繕作業にいそしんでいた。



『社を直したら殺してやる』



数日前の夜の出来事。言われたその言葉。


見ず知らずの初対面の相手に
平然とそんな言葉を口にしたあの人に
少なからず恐怖を感じた。


混乱した、困惑もした。


だけど、それ以上に
その言葉に『救い』を感じてしまった。


『自殺』ではなく、『他殺』なら
自分の『死』を、誰かのせいにできる。
自分の『死』に、同情できる理由ができる。


不幸な事故で、被害者で終われるなら
そっちの方がいいんじゃないかって

その方が
自分の心を守れるんじゃないかって、思った。


だから、私は


『痛くも、怖くもしないでくれるなら
苦しまずに、死なせてくれるなら』


と、その提案に頷いた。



そして、現在
約束通り、社の修繕作業を始めたわけだけど…



「……本当に、ぼろぼろ」



……この様子だと
信者はもう長い間いないのかな。


小さな頃は、私もよく参拝にきていたけど
いつのまにか、ここを訪れることはなくなった。


人の手が入らなければ
山も、建物も、あっという間に荒れ果てる。


記憶の中にあるこの場所は
この社は、もっと、きれいだったはずなのに。


……もっと、大事にされていたはずなのに。


今はもう


壊れたまま放置され
ただ朽ちていくのを待つだけ。
< 17 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop