私のかみさま(改訂版)
「…」



私はポケットの中に入れっぱなしだった
小銭を取り出して
それをすべて、壊れかけの賽銭箱に投げ入れた。


からんからん


錆びた小さな鈴を鳴らして、手を合わせる。



(……どうか、来世では
強い人間になれますように)



「…」



願った後に
変わらず、さみしそうに佇む社に向かって
小さく語りかけた。



「…できるだけ、きれいに直すからね」



……そういえば
ここに祀られてる
神様の名前はなんだっただろう。


ふと、そんな事を思う。


この山の神様が祀られてるのは知ってる。


おやま様、山神様、大神様。
呼び名はたくさんある。


だけど、それじゃない名前が…



「…?………それじゃない名前ってなんだろう」



たくさんの呼び名。
でも、全部知ってはいる。

だけど、どれもぴんとこないのはどうして?
もやもやした気分になるのはなんで?



……そういえば
ここへ遊びにくると、いつも誰かがここにいて
一緒に遊んだ覚えがある。


遊んだというか、遊んでもらっていた。


……お兄さん、だった気がするけど
あの人の顔も名前も
今となっては思い出せない。


嫌な記憶は鮮明に残って
楽しかった記憶は朧気なんて、残酷だ。



「おー、やってるな」



すっかり考え込んでしまっていた私は
背後から響いた明るい声に、はっと我に返る。


振り返れば
買い物袋を揺らしながら
こちらに向かってくる人の姿が確認できた。


例の不審者だ。



「…」



あれから、何回か顔を合わせてはいるけど
正直、どう接していいか分からない。


何か言葉を返した方がいいかと悩みつつも
結局、軽く頭だけ下げて、作業を再開する。
< 18 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop