【完結】『お姉ちゃんだから』と我慢し続けてきた令嬢、ついにブチ切れる
「……ソフィー」
「お父さま?」
最後に声をかけてきた父は、どこか申し訳なさそうに視線を落とした。
「……ワインの方は、まだこれといった成果が出せていなくてすまない」
「ワインは一本を完成させるまでに時間がかかるものです。一年で結果が出るとは思っていませんよ」
「だから、うちのワインではないのだけれど……」
父が差し出したボトルを見て、私は息を呑んだ。
ラベルに記された数字は、私が生まれた年のヴィンテージ。かつて絶望の淵で何度も眺めた、あの思い出のワインと同じ年だった。
瓶の首には、あの日、母が用意してくれたものとそっくりな黄緑色のリボンが、不器用に、けれど固く結ばれていた。
私は言葉を失い、抗いがたい引力に惹き寄せられるように、その紅い瓶へと一歩を踏み出した。
「……産地は違うけれど。私のお客さまの伝手を借りて、何とか取り寄せたのよ」
「あのね、お姉ちゃん……そのリボン。素敵だったから、私がこっそり隠し持っていたの」
フルールが消え入るような声で「ごめんなさい」と呟いた。
父も継母も、自分たちには謝罪する資格さえないのだと言いたげに、唇を震わせて俯いている。
……ああ。
お腹の底には、まだ過去を許しきれぬ私もいるけれど。
それでも、母を失ってから過ごしてきたどの瞬間よりも、今の私は満たされている。
私は一度、熱くなった目元を落ち着かせるようにまぶたを閉じ、それから精一杯優しく微笑んだ。
「……フルールはジュースだけれど。皆でこの一年の頑張りを労って、乾杯しましょう」
この国では十八歳から飲酒が許される。
去年はそれどころではなかったから、私にとってこれが人生初めてのアルコールだった。
――そう。
私がお酒に強いのか、酔えばどうなるのか。
それを知る者は、この場に一人もいなかったのだ。