『お姉ちゃんだから』と我慢し続けてきた令嬢、ついにブチ切れる【完結まで毎日更新!】
『お姉ちゃんだから』の魔法が解けたのは、私の十八歳の誕生日の、わずか二日前のことだった。
十八歳になれば成人として認められ、私は正式にこの伯爵家の当主となる。
その日を指折り数えていた私のもとに、一通の号外が舞い込んだ。
〈帝国の第一王子、レオポルド・ド・リュミエール。婚約内定か――!?〉
紙面に躍る姿絵は、成長の歳月を差し引いても見紛うはずがない。
あの日々を共に過ごした、あの少年だ。
かつて彼が暗殺者に襲われ、私の母が彼を庇って命を落としたあの惨劇。
その際、彼が手の甲に刻んだ大きな傷跡までもが、民衆へ手を掲げる姿絵には克明に描かれていた。
「……嘘よ」
私の手から新聞が離れ、ひらひらと舞いながら床に落ちる。
呆然としながらも、身体は無意識に、執務室の片隅へと歩み寄った。
もう一つの心の拠り所。
そこにあるはずの、母が私の成人式のために遺してくれた、黄緑色のリボンが結ばれた特別なワイン。
――けれど。伸ばした指先が触れたのは、虚空を漂う冷たい空気だけ。
そこにあるのが当たり前だった母の形見は、跡形もなく消えていた。
「……ふ、ふふ。あはははは!」
喉の奥から、乾いた笑いが溢れ出す。
希望の光だった王子様は幼い幻想だった。
残ったのは伯爵家の威信を浪費し、散らかすしか能のない粗大ゴミたち。
何のために、誰のために。
私は『お姉ちゃん』という名の、無償で動く便利な使い捨ての道具に成り下がっていたのだろうか。
ああ、全部わかったわ。
ここは私の家じゃない。
私が守り続けてきたのは、温かな家族などではなく――『お姉ちゃんなら何とかしてくれる』と甘え腐った、寄生虫の飼育箱だったのだ。