友達のまま
私は自販機のスチールの壁に爪を立てて、ぎゅっと目を閉じそうになる。


他の誰かが、翼の隣にいる。


他の誰かが、翼に「好き」という、私が一生言えない魔法の言葉をぶつけている。


その生々しい現実が、私の心をズタズタに引き裂いていく。


もし私が『友達』じゃなくて、彼の『恋人』だったなら。


あんな場所に行かないでって怒って、彼の袖を引っ張って、私の後ろに隠すことができたのに。


だけど、私はただの「アミ(友達)」だから。


彼を縛る権利なんて、1ミリだって持っていない。


しばらくして、翼が申し訳なさそうに頭を下げ、女の子は泣きながら走り去っていった。


「おまたせ、アミ。……悪い、待たせたな」


戻ってきた翼の顔は、いつもの調子じゃなくて、少しだけ大人の、真剣で切ない表情をしていた。


私はその顔を見て、さらに胸が苦しくなる。


「お疲れ様。可愛い子だったのに、もったいないことしちゃって」


私は無理やり作った笑顔で、いつものように翼をからかう。


「うるせぇよ。俺には、そんなのまだ早いんだって」


翼は照れ隠しにカバンを肩に担ぎ直すと、私の歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。


オレンジ色の夕暮れが、私たちの影を長く、長く、地面に伸ばしていく。


隣を歩く翼の体温を感じながら、私は必死で、胸の中で暴れる独占欲を抑え込んでいた。


(お願いだから、私の知らないところで、誰かのものにならないで――)


友達という安全な特等席は、世界で一番、残酷で遠い特等席だった。


私は今日も、泣き出しそうな心を笑顔の仮面で隠して、彼の「アミ」として、ただ隣を歩き続ける。
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