友達のまま
「な、何なの?急に怒ったりして。翼、変なの」


私は胸の鼓動を必死に隠しながら、いつもの「ただの友達」の口調で笑おうとする。


だけど、翼はいつものように笑い返してはくれなかった。


「変じゃねぇよ。お前、自分がどれだけ無防備か分かってねぇだろ」


翼はポツリと、だけどひどく掠れた声で呟いた。


「俺たち、世界で一番の『友達』だけど……だからって、お前が他の男と簡単に繋がるのを見るのは、なんか……胸のあたりが、めちゃくちゃにイライラするんだよ」


その言葉は、まるで告白の一歩手前にある、剥き出しの独占欲そのものだった。


(翼、それって……どういう意味……?)


私の頭の中に、一瞬だけ、甘くて淡い期待が弾けそうになる。


だけど、次の瞬間、あの歌詞の冷酷なブレーキが、私の頭に冷水を浴びせかけた。


(ダメ。これ以上、踏み込んじゃダメ。もし私たちが一線を越えて恋人になっちゃったら、いつか必ず別れる日が来る。そんなの、絶対に嫌だ)


私はきゅっと唇を噛み締めると、胸が張り裂けそうな痛みを笑顔の仮面で完全に塗りつぶして、翼の顔を覗き込んだ。


「あはは、何それ! 翼ってば、私にお兄ちゃんぶって嫉妬してんの? 幼馴染の独占欲、強すぎ!」


わざと明るく、軽薄に、2人の間に引かれた「友達」という境界線を、私の方から強く引き直してみせる。


翼は私の笑顔を見て、一瞬だけ、ひどく傷ついたような、諦めたような目を引いた。


「……あ、そうだな。お前の言う通り、ただの幼馴染のワガママだわ」


翼はふっと自嘲気味に笑うと、いつもの「一番の友達」の顔に戻って、私の頭を乱暴に撫で回した。


「ほら、帰るぞ。置いてっちゃうからな」


「あ、待ってよ翼!」


先を歩く彼の広い背中を追いかけながら、私は自分のズキズキと痛む胸を、左手でぎゅっと押さえていた。


お互いに、相手を世界で一番愛しているのに。


お互いに、相手を誰の手にも渡したくないほどの独占欲を隠し持っているのに。


「一生失いたくない」という一番優しい嘘のせいで、私たちは今日も、すれ違うロマンの海を泳ぎ続ける。
< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop