アオハル×フラグ=恋。
「ないないないない!」


里穂は顔の前でぶんぶん手を振る。


菜々子「ですがですがぁー、これは一体どういうことなのでしょう」


菜々子はニヤニヤしながら、
里穂の横を指差した。

三人の視線が一斉に向く。

そこには、
誰も座っていない空席。


好桜「あっ、それ私も気になってました」

「だから何よぉー」


里穂は頬をふくらませながら、
じとーっと三人を見る。


菜々子「だからだから! フラグ!」

愛華「出たよ菜々子のフラグ論」

菜々子「見てなってりほ! 絶対このあと先生が、“転校生くんはそこの空いてる席な”って言うから!」


そう言って、
菜々子は“うしししっ”と悪い顔で笑った。


愛華「うわ、それ激アツじゃん」

好桜「漫画でよく見るやつですね」

愛華「わくわくすんなー、りほ」

「しないって!」


里穂はプラスチックの下敷きを持って、
ぱたぱたと自分を扇ぐ。

その横で、
好桜まで一緒になって扇いでいた。

なんか可愛い。


菜々子「まぁ見てなさいってぇー」


菜々子はそう言いながら、
里穂の前の席へ座る。


ちなみに。

好桜は菜々子の右隣。

愛華は二列向こうの一番後ろ。

そして里穂は、
窓際最後尾という、
もはや神に愛された最強ポジションだった。


菜々子が席につくかつかないかというところで、
チャイムが鳴る。


同時に、
教室の扉がガラッと開いた。


「はい注目ー! 今日は忙しいから朝の挨拶なし!」


入ってきたのは、
去年赴任してきたばかりの体育教師。

若くて声がデカい。


「大事な話から順番にいくぞ!」


教室の空気が少し締まる。


そして先生は、
ニヤッと笑って言った。


「お前ら! 今日は転校生がこのクラスに来る!」


その瞬間。

里穂はぴしっと背筋を伸ばした。

前を見ると、
菜々子の肩がぷるぷる震えている。

笑ってるな、あいつ。

しかも好桜まで下を向いて笑いを堪えていた。

愛華に至っては、
なぜかグッドポーズを向けてきている。

謎だ。


そんな三人を見ているうちに、
教室の扉がもう一度開いた。


入ってきた男子を見た瞬間。


予想通り朝、自転車の荷台に乗せてきた男子だった。


男子生徒は教卓の横へ立つ。

その瞬間から、
教室のあちこちでひそひそ声が聞こえ始めた。

特に女子。


「え、かっこよくない?」

「背高くない?」

「肌白っ」


それも仕方なかった。

色白で整った顔立ち。

大きめの目に、
すっと通った鼻筋。

制服の着こなしもどこか自然で、
立っているだけで目を引く。


先生「はいはい静かにー。じゃあ自己紹介」


転校生は小さく頷いた。


航大「初めまして。東京から引っ越してきました。平井 葵(ひらい あおい)です。よろしくお願いします」


少し低めの声。

緊張しているのか、
元からこういう性格なのか。

どこか淡々としていた。


先生「よし! 今日からよろしくな!」


先生は教室を見回し、
すぐに空席を指差す。


先生「平井はー……そこの席な」



里穂の横だった。


その瞬間。

菜々子と好桜が、
同時に振り返る。

めちゃくちゃいい笑顔だった。

やめろ。


さらに菜々子は、
小さく折った紙を里穂へ渡してくる。


蒼が席へ向かってくる間に、
里穂はこっそり紙を開いた。


『じゃあ、りほが蒼の学校案内してくれー』


横にはなぜか、
旗のマークまで描かれていた。


ぶっ飛ばす。


里穂が菜々子を睨もうとした瞬間、
蒼が隣へ座る。


里穂は慌てて前を向き直した。


「よ、よろしく……」

蒼「うん、よろしく」


蒼は小さく笑う。


蒼「あと、朝はありがと」

「あっ、うん! 全然気にしないで!」


その時。

ふわりと風が吹き抜ける。

開いた窓から春風が入り込み、
カーテンを大きく揺らす。


その空気が妙に心地よくて。

里穂は一瞬だけ、
言葉を忘れそうになった。


すると。


先生「じゃあ、りほが蒼の学校案内してくれー」


「はっ、はひっ!!」


ガタンッ!!


里穂は勢いよく立ち上がる。


まさか。

菜々子の予言が、
一言一句そのまま当たるなんて。


教室のあちこちから笑い声が漏れる。

里穂の顔は一気に熱くなった。


先生「頼んだぞー」

「……は、はい」


里穂は真っ赤なまま席へ座る。


うわうわうわ。

まじですか。


隣では、蒼が少しだけ笑っていた。


それだけで、
心臓がまた変にうるさくなる。


里穂は机に視線を落としながら、
必死に呼吸を整えた。
< 4 / 56 >

この作品をシェア

pagetop