演技派女優に本気で恋をしてしまった社長の誤算
「私、そんなに魅力ない?」

「まさか……君ほど魅力的な人はいないよ」

俺達はじっと見つめ合った。

彼女がバスルームへ向かった後。

閉まったドアの向こうから微かに水音が聞こえ始めた。

あの伊藤萌奈が、今、俺と同じ部屋にいる。

スクリーンの中で数々の賞を総なめにし、誰もが遠くから仰ぎ見るだけの存在であるあのトップ女優が。

今夜、俺に抱かれようとしているのだ。

「……落ち着け」

静まり返った部屋の中で、自分の心臓の音だけが異様なほど大きく響いていた。

ドクドクと脈打つ鼓動が耳の奥でうるさい。

ビジネスの重大なプレゼンでも、億単位の買収劇でも、これほど動揺したことはなかった。

彼女の「一人の女として見て」という言葉が、まだ耳の底で熱を持ったままリフレインしている。

すべてをデータと論理で支配してきた俺の頭脳が、今はただの、一人の男としての本能によって完全にジャックされていた。
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