演技派女優に本気で恋をしてしまった社長の誤算
「じゃあ、私、これで失礼しますね。また、お仕事の現場で」

綺麗な微笑みを浮かべ、スマートにバッグを肩にかける。

そのまま、俺から離れて部屋を出ていこうとする彼女の背中を見た瞬間。

俺の胸の奥で、経験したことのないような激しい焦燥感が燃え上がった。

行かせるわけにはいかない。

このまま彼女がドアを開けて出ていってしまったら、二度と「俺の萌奈」には会えないような、そんな恐怖が襲ってきた。

俺はベッドから飛び起き、 裸のまま彼女の身体を後ろから思い切り抱きしめた。

「……社長?」

「一哉だろっ、萌奈っ……!」

押し殺した、しかし切実極まりない声が俺の喉から溢れ出た。

社長? 仕事の現場? ふざけるな。

あんなに俺を求め、俺の名前を呼んで喘いでいたのは一体誰だったんだ。

背中越しに伝わる彼女の華奢な体温を確かめるように、俺は腕に力を込める。

認めざるを得なかった。

俺は、完全に、狂おしいほどに伊藤萌奈という女性に恋をしていた。
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