演技派女優に本気で恋をしてしまった社長の誤算
その圧倒的な悦びと、未だ身体に残る濃厚な余韻のせいで、思考が完全に停止していた。

ビジネスの世界で「無敵」とまで称された俺の頭脳が、ただの抜け殻のようになって、彼女の美しい肢体を追うことしかできない。

だが、その甘やかな陶酔は、彼女の次の言葉によって一瞬で叩き割られることになる。

「社長、ありがとうございました。……とても、素敵なお部屋でしたね」

鈴を転がすような、いつもの、完璧にコントロールされた声だった。

「……え?」

俺はハッとして、弾かれたように顔を上げた。

あんなに激しく愛し合い、互いの名前を呼び合って、剥き出しの快感の中で絶頂を分け合ったはずなのに。

彼女の口から出た呼び名は、冷徹なまでに「社長」へと戻っていた。

見ると、彼女はすでに用意されていた衣装に身を包み、髪を綺麗に整え、完璧な「女優・伊藤萌奈」の姿で佇んでいた。

昨夜、俺の腕の中で天使のように眠っていた、あの無防備で不器用な「一人の女」の影は、どこにも見当たらない。
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