余所者-よそもの-
「なぜ、アイツをあの名で呼ぶ?」
それは、以前にも街で聞かれたこと。
アイツとは、シドのことだ。
「多夜さんに、言われたから……」
私がそう答えれば、勢いよく振り返ったその顔はキ、と憎いものを見るような目つきをしていた。
「お前はっそれでいいのか!?」
「……どういう意味?」
私が尋ねれば、少女はギュッと口を結んだ。
言いたいことを我慢するような仕草に、「ねえ、」と肩に触れた。
「お前は悪いヤツじゃない」
「………」
「だから、忠告しておく」
……忠告?
「多夜に気をつけろ。アイツ、ロクなこと考えてない」
しばらくの間、少女と視線を交わしていた。
どういうことだ、と思考がフリーズしたとき。
少女の意図を掴もうと目を凝らした視界に、ぬっと黒い影が割り込む。
「おうおう、立て込んでるとこ悪いな」
「……バン?」
「呼び捨てにしてんじゃねーよ、ブス」
ポケットに手を突っ込んだバンが、私を押しのけるようにして通りすぎる。
文句をいう暇もなく。
バンはそのままAnBarのドアを蹴破る勢いで入っていった。
嵐のようにあっという間に通り過ぎていった背中。
我に返って、慌てて視線を元の場所に戻す。
「……あ」
そこにはもう少女の姿はなく。
まるで最初から誰もいなかったみたいに、静まり返った路地。
そうして、わからないことが、わからないまま。
謎だけが、色濃く残った。