恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 その日の仕事を終えた頃、朝陽が帰り支度をしていると直人が声を掛けてきた。

「藍島、今朝の話なんだけど」

 そう前置きした直人は申し訳なさそうに眉を下げる。

「悪い。やっぱり響の奴、木葉さんのことが諦められなくて声を掛けるタイミングを窺ってたって認めたよ」
「……そうですか」

 直人は気まずそうにしながらも本人から聞いた話を伝えていく。

「今日、もう少し詳しく話を聞いてくるつもりなんだけど……その前に確認させてくれ。アイツは一体何をしたんだ?」
「えっと……」

 朝陽はこれまでの出来事を一つずつ話した。

「彼女の自宅の最寄り駅に現れたり職場の近くにいたり……。それから、俺の住んでいるマンションまで把握していて嫌がらせみたいにインターホンを鳴らすこともありました」
「……は?」

 直人の顔から一瞬で表情が曇り、

「アイツ、そんなことまでしてたのかよ……」
「はい」
「本当にすまねぇ! 藍島」

 直人は深々と頭を下げた。

「必ず止めさせるから!」
「先輩……」
「それと……直接謝罪もさせようか?」

 その問いに朝陽は少し考えたあと、首を横に振った。

「……いえ、謝罪は結構です」

 そして、はっきりとした口調で続ける。

「出来れば今後一切、彼女には関わらないでほしいです。ただ……田仲さん、彼女の会社の取引先相手なんですよね」
「ああ、そうみたいだな」
「だったら業務中まで関わるなというのは難しいと思うので……せめて、業務時間外は彼女に関わらないように伝えてください」

 朝陽の言葉に直人は真剣な顔で頷いた。

「分かった。ちゃんと伝えるよ」
「ありがとうございます」
「本当に悪かったな」
「いえ。こちらこそすみません。先輩に嫌な役を頼んでしまって」
「いやいや、元はと言えば俺が悪いんだよ」

 直人は苦笑しながら首を振った。

「合コンの写真なんか見せたからさ。まさか、こんなことになるとは思わなかった。木葉さんにも謝っておいてくれ」
「はい。分かりました」

 こうしてひとまず付き纏いの件は無事に解決し、朝陽は亜佑美が安心して日常を取り戻せると思っていた。

 けれど、朝陽まだ知らなかった。

 この件がまだ終わっていないことを。
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