恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
「……あの、少しいいですか?」

 声をかけられて振り向くと界人が立っていた。

「……何で、俺がここにいるって分かったんですか?」
「トイレに寄ったら誰もいなかったんで、外かなって思って」
「そう、ですか」

 それだけ言うと会話は途切れ暫くの間、どちらも口を開かなかった。

 気まずい沈黙が流れる中、意を決したように界人が口を開いた。

「あの……誤解してほしくないんですけど……」
「え?」
「俺、彼女いるんで」

 思いがけない言葉に朝陽は目を瞬かせた。

「……彼女?」
「はい。今は遠距離なんでなかなか会えないんですけど……ちゃんと付き合ってる彼女がいます」

 界人は少し言いにくそうにしながらも真っ直ぐ朝陽を見た。

「だから、俺が木葉に気があるとかそういうんじゃないです。本当に」

 どうやら界人は朝陽が自分と亜佑美の関係を疑っていることに気づいていたらしい。

 だからこそ、誤解されたままにしたくないのだろう。

「木葉の力になりたいって思ったのは同期だからっていうのももちろんあります。でも……それだけじゃなくて」

 界人は一度言葉を切ると遠くを見るように目を細めた。

「俺の彼女は幼なじみなんですけど、学生の頃にストーカー被害に遭ったことがあるんです」

 界人の言葉に朝陽の表情が変わる。

「その時の彼女、すごく疲弊してて……俺や兄貴で犯人を突き止めて、その男は警察に捕まったんですけど、捕まった後も暫くは外を歩くことすら怖がってました。誰かに後をつけられてないかって何度も振り返ったりして……身近でそういう彼女を見てきたからこそ、木葉の話を聞いて放っておけないって思ったんです」

 それだけ言って界人は苦笑する。

「だから、つい首を突っ込んじゃって。藍島さんからしたら、余計なお世話だったかもしれませんけど」
「……いや」

 朝陽は小さく首を振った。

「そんなことないです」

 つい今しがたまで朝陽は界人に対して警戒していた。

 亜佑美を気に掛けるのは特別な感情があるからではないかと。

 けれど、それはただの思い込みで界人には理由があった。

 そして何より、心の底から亜佑美を心配してくれていたのだと分かり疑っていた自分が恥ずかしくなった。
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