恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 亜佑美に追いついた力弥はほっとしたように表情を緩める。

「よかった……会えて」
「あの……何か?」

 突然のことに困惑する亜佑美をよそに、力弥は少し躊躇うように視線を揺らした後、小さく息を吸うと、

「あの、少しお時間頂けませんか?」

 そう用件を口にする。

 その言葉でこれまでの経験上、亜佑美は力弥が何を言いたいのかは何となく察する。

「……すみません、今日はちょっと……」

 事を荒立てたくない亜佑美は出来るだけ柔らかく断ると力弥は一瞬だけ表情を曇らせ、

「それなら、後日時間を作って頂けますか?」

 諦めきれないようで、日を改めて時間を作って貰えるかを確認する。

「それは――」

 曖昧にしていてはいけないし、期待を持たせる方が失礼だと思い直した亜佑美が覚悟を決めて口を開きかけた、その時、

「木葉さん?」

 ふいに横から掛けられた聞き慣れた声に亜佑美ははっとしてそちらへ視線を向けると、

「……っ」

 そこには朝陽が立っていた。

 合コンに行く前も最中も駅へ向かう時もずっと会いたいと思っていた朝陽が目の前に居る。

 その事実は嬉しいが、今この状況下で会いたくは無かった亜佑美。

 一見いつも通り穏やかな表情を浮かべているようだけど、亜佑美の隣に立つ力弥を見た瞬間、朝陽の瞳が僅かに鋭さを帯びた。

「……知り合いですか?」
「あ、えっと……」

 合コンに参加していたことは朝陽に話していないこともあり、どう答えようか悩んでいた亜佑美。

 そんな中、力弥が朝陽へ向き直り、

「すみませんが、亜佑美さんは今私と話をしているところなので、遠慮していただいても宜しいでしょうか?」

 遠回しに朝陽に立ち去るよう話をするも、

「あの、申し訳ないですけど、私からお話しすることはありませんので、これ以上は困ります……」

 亜佑美が自分から話すことは何も無いと伝えると、力弥は言葉を詰まらせた。

 そんな二人を前にした朝陽は、

「用件は済んだみたいですね。送りますから帰りましょう、木葉さん」

 力弥が見ている目の前で亜佑美の手を取り、どこか牽制するような瞳で力弥を見た朝陽は亜佑美の手を繋いで歩き出した。

 手を引かれた亜佑美は力弥に視線を向け、「失礼します」と一言告げると、朝陽と共にその場を去って行った。
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