恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 その後、近くの喫茶店で軽く食事を済ませた二人は車に乗り込み、朝陽は亜佑美の自宅へ向けて車を走らせた。

 食事中はさほど意識していなかったのに、こうして二人きりになると急に落ち着かなくなる。

 夕方、告白される前は、どこへ行くんだろうという期待で胸が弾んでいたけれど、今は行き先が自宅でこの時間が終わってしまうのが分かっているだけに亜佑美の胸の奥に寂しさが広がっていて、流れていく夜の景色をぼんやりと眺めていく。

 一方の朝陽は、どこか憂いを帯びた表情を浮かべる亜佑美を横目に見ながら首を傾げていた。

 喫茶店を出るまではいつも通りだったからこそ、何故急にそんな表情をしているのか分からなかったのだ。

 やがて車は亜佑美の住む町へ入り、マンションまでもう少しというところまで来る。

 その瞬間、亜佑美はぎゅっと拳を握りしめた。

(このまま帰ったら、きっと後悔する)

 そう思ったからだ。

「朝陽くん……」

 そして、意を決したように名前を呼ぶ。

「は、はい!?」

 突然声を掛けられた朝陽は驚きながらも視線を向けたけれど、亜佑美は俯いたまま何か言いたそうに唇を動かしては止めていて、その様子に朝陽は心配そうに声を掛けた。

「あの、どうかしましたか? もしかして俺、何かしちゃいました……?」

 すると亜佑美は小さく首を振りながら、「違う」と答え、そして消え入りそうな声で呟いた。

「……まだ、帰りたくない……」
「え……?」

 その言葉に、朝陽の思考が一瞬止まる。

 そしてすぐに思考を巡らせながら、

「あっ、すみません! 気づかなくて! どこか寄りたい場所があったんですね。言ってくれれば――」
「違うの」

 即座に否定されて朝陽はますます混乱した。

 何が違うのか分からず戸惑う朝陽を見て、亜佑美はとうとう痺れを切らしたらしい。

 顔を真っ赤にしながら顔を上げ、そして少しだけ頬を膨らませて拗ねたような表情を浮かべながら、

「そうじゃなくて……」

 一度言葉を区切り、恥ずかしさを押し殺すように続ける。

「まだ、朝陽くんと離れたくないから……帰りたくないの」

 その言葉を聞いた瞬間、朝陽の心臓が大きく跳ねた。
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