恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 それから暫くして、ふわりと漂ってきた優しい匂いに誘われるように亜佑美はゆっくり目を開け、

「……ん……」

 ぼんやりした視界のまま天井を見つめると、身体はまだ怠いものの先程よりは随分楽になっていた。

 恐らく薬が効いてきたのだろう。

 耳を澄ますと、キッチンの方から小さく食器の触れ合う音が聞こえてきたので少しだけ身体を起こして視線を向けると、朝陽がお粥を作った後片付けをしているところだった。

(……本当に作ってたんだ)

 その姿をぼんやり眺めていると、ちょうど片付けを終えた朝陽がリビングへ戻って来て亜佑美が起きていることに気づいた瞬間、ぱっと表情を変え、

「えっ、起こしちゃいましたか!?」

 慌てたように声を上げる朝陽。

 その反応があまりにも大袈裟で、亜佑美は思わず小さく笑ってしまう。

「ふふ……大丈夫……」
「あ、よかった……」

 その言葉に心底安心したように肩を落とす姿に、また少し可笑しくなる。

「薬、効いたみたいで……さっきより楽かも」
「本当ですか?」

 朝陽は嬉しそうに目を細めた。

「……ありがとう」

 亜佑美がそう言うと、朝陽はにっこり笑う。

「少しでも元気になってくれて安心しました」

 その笑顔は飾り気がなくて真っ直ぐだった。

「あ、そうだ。お粥、食べますか?」
「……うん、食べたい」
「分かりました。今持ってきますね」

 朝陽はすぐにキッチンへ戻ると、湯気の立つ鍋と器を持って戻ってきた。

「熱いので気をつけてください」

 そう言いながら取り皿によそうと、スプーンと一緒に亜佑美へ手渡した。

「ありがと……」

 亜佑美は小さく礼を言いながら、お粥を一口口へ運ぶ。

「あっ……、ふ、っ……!」

 思った以上に熱かったようで軽く噎せてしまう。

「だ、大丈夫ですか!?」

 朝陽はすぐに皿を受け取って水を差し出した。

「はい、水です!」
「ん……ありがと……」

 水を飲みながら呼吸を整える亜佑美の横で朝陽は、自然な動作でお粥を一口分スプーンに掬い、そして、

「ふー……ふー……はい」

 冷ましたスプーンをそのまま亜佑美の口元へ差し出してくる。

「…………え?」

 その瞬間、亜佑美の思考が止まる。

(これって、え……?)

 そして一気に熱とは別の意味で頭が混乱した。
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