恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 暫くして、バスルームのドアが静かに開いた。

「お、お待たせ……」

 遠慮がちな声に顔を上げた朝陽は思わず息を呑む。

 湯上がりの亜佑美が自分と同じバスローブに身を包んでいるだけで落ち着かないというのに、ほんのり上気した頬や無防備な姿に朝陽の胸が大きく跳ねる。

(可愛い……)

 そう思うけれど見つめすぎるのも失礼な気がした朝陽は慌てて視線を逸らすと、

「えっと……これ、どうぞ」

 つい先程冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを差し出した。

「あ、ありがとう」

 亜佑美は小さく微笑むとそれを受け取り迷わず朝陽の隣に腰を下ろし、キャップを開けて一口飲み、再びキャップを閉めてペットボトルをチェストの上へ置いた。

 沈黙の中、どちらも話さず相手の様子を窺っている。

(どうしよう……)

 亜佑美は膝の上で指先を絡めた。

(こういう時って、どうすればいいの……?)

 自分から何かした方がいいのだろうけれど、どうすれば自然なのか分からない亜佑美。

 一方の朝陽も、

(俺から何か言わないと……)

 そう思うのに何も言葉が出て来ない上に緊張で心臓が騒がしかった。

 互いに同じ緊張をしていることは何となく伝わって来ていて、やがて朝陽が小さく笑った。

「……なんか」
「え?」
「お互い、すごく緊張してますよね」

 その言葉に一瞬きょとんとした亜佑美だったが、次の瞬間くすりと笑う。

「そうだね」
「すみません……正直、こういう時って何を話せばいいのか分からなくて」
「ふふ、私も……」

 本音を口にしながら二人は顔を見合わせると、途端に張り詰めていた空気が少しだけ柔らかくなった。

「こうしてると、夢みたいです」
「夢?」
「はい。好きな人と旅行に来て、こんな素敵なホテルに泊まれて……すごく幸せです」
「……それは、私だって同じだよ」
「え?」
「朝陽くんとこんなに素敵なホテルに泊まれるなんて幸せで……本当に本当に嬉しいよ」

 そう言われて朝陽の頬は熱くなる。

「朝陽くんと付き合えて、本当に良かったなって思ってる……」
「亜佑美さん……」

 先程までとは違う、どこか熱を帯びたような視線で言葉を探すように見つめ合った二人は――

「……好き……」
「俺も、好きです」

 愛の言葉を交わしながら、どちらからともなくキスをした。
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