恋愛経験ゼロの年下くんが、私の一番になりました
 部屋の前までやって来た二人は顔を見合わせて小さく頷き合い、朝陽がカードキーをかざしてゆっくりとドアを開けた瞬間――

「……わぁ」

 亜佑美の口から感嘆の声が漏れる。

 目の前に広がっていたのは、思わず息を呑む程美しい空間だった。

 スイートルームではないものの、それに引けを取らないほど広々とした客室。

 落ち着いた色合いで統一されたインテリアは上品で高級感に溢れ、柔らかな間接照明が室内を照らしている。

 窓際にはゆったりとしたソファーが置かれ、その向こうには街の夜景が一望できた。

「凄い……」

 亜佑美は思わず窓辺へ歩み寄る。

 キングサイズの大きなベッドにガラス張りのシャワーブースに広々としたバスタブ。

 並べられたアメニティも充実している。

「こんな素敵な部屋に泊まれるなんて思いもしなかった!」

 振り返った亜佑美の表情は子供のように輝いていて、そんな彼女を見て朝陽も自然と笑みを浮かべた。

「俺もです。こんな立派な部屋、初めてで感動してます」

 二人は暫く室内を見て回ると、その贅沢な空間を存分に堪能した。

 やがて朝陽がバスルームを覗き込みながら言う。

「とりあえず、お風呂に入りますか?」
「そうだね」
「お湯張りますね」
「うん、ありがとう」

 そして、どちらが先に入るかという話になり朝陽としては亜佑美が先の方が良いかと思ったものの、亜佑美は時間が掛かるのは申し訳無いからと朝陽から入ることに。
 
 バスルームの扉が閉まった瞬間、亜佑美はふぅっと息を吐いた。

(お風呂が終わったら……いよいよ……)

 ドキドキと高鳴る鼓動は落ち着かず、とにかく何かをして気を紛らわせようと朝陽が入っている間にバスルームへ持っていく物を再確認。

 下着やスキンケア用品など一つずつ丁寧に纏めていく。

(変に意識しちゃ駄目……)

 そう思えば思う程に緊張は増していく。

 そうこうしているうちにバスルームのドアが開いた。

「お待たせしました」

 髪を軽く拭きながら出てきたバスローブ姿の朝陽を前に、亜佑美は慌てて立ち上がる。

「あ、じゃ、じゃあ私も入って来るね」
「はい。ごゆっくり」

 互いに少しだけぎこちなく笑顔を交わし、今度は亜佑美がバスルームへ向かった。

 ドアが閉まり、部屋に一人残された朝陽はベッドへ腰を下ろした。

 先程まで平静を装っていたが朝陽も亜佑美同様落ち着かず、大きく息を吐く。

(緊張するな……)

 未経験の自分が経験のある亜佑美をリード出来る訳もなく、かと言って任せきりというのも男としてどうなのだろうと朝陽は悩んでいた。

(上手く出来なかったらどうしよう……)

 下手で不安にさせてしまうかもしれないけれど、こんな弱気ではいけないし大切なことは他にある。

 そう思った朝陽は自分に喝を入れる。

(違う、上手くやることよりも、亜佑美さんを大切に想うことが一番だよな……)

 どんな時でもそれだけは忘れないでいようと、朝陽は静かに拳を握った。
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