選べなかった恋の続きを、君と紡いで
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「すみません、もしかして席間違えていませんか?」
「……え?」
京都発、東京行きの新幹線。夕暮れ時に乗り込んだ車内でノートを広げて唸っていた私――七瀬一花は、控えめにかけられた声に顔を上げた。
少し困った顔で目の前に立つのは、黒髪に濃いグレーのスーツを着た同い年くらいの整った容貌の男性。彼の視線が、私と荷物棚に記された座席番号を往復している。
ハッとして改札をくぐった時にもらった席チケットを確認すると、号車、番号はあっていた。けれど、D列ではなくE列と記載されている。通路側ではなく窓際を予約していたのに誤って座っていたらしい。
「す、すみません! すぐどきます!」
「いえ、ゆっくりで大丈夫です」
あわふたと広げていたノートとテーブルを閉じると、緩く巻いた茶色の長い髪が胸のあたりで揺れた。
膝に抱えていたカバンとカーディガンを持って隣の席へと移動する。そうだ、今回は窓際を予約したんだった。普段通路側を予約することが多いせいで、いつものクセで間違えてしまったらしい。
京都を発車してからいつの間やら三十分が経過していたらしく、窓の向こうにはたった今発車したらしい名古屋駅のホームが流れている。隣の人が来なければ、品川までずっと間違えていたかもしれない。申し訳なさと恥ずかしさで小さくなりながらテーブルを引き出していると、隣に男性が座る音とともに視線を感じた。
「七瀬さんだよな?」
「……え?」
さっきと同じような間の抜けた返事をしてしまった後、手元から隣へと視線を移す。どうして、私の名前を知っているのだろう。
もしかして知り合い?
忘れているのかもしれない……と焦りながら高速で思考を巡らせる。左右に流されてセットされた黒髪。軽く下げられた眉。まじまじと見つめると、左目の下にホクロがひとつある。あっと気づいた瞬間、夕焼け色に染まる図書室の記憶が滝のように勢いよく流れ出してきた。
「覚えてないか? 中学の時──」
「もしかして、汐月くん!?」
「そう。久しぶり」
汐月くんが、安堵したように口元を緩めた。
「びっくりした……! 中二の時に汐月くんが引っ越して、今二十七歳だから……十四年ぶり?」
「だよな。元気にしてた?」
「うん、元気だよ」
汐月律。中学校の同級生で、一緒に図書委員を務めていた仲の良い友人だった。
けれど、彼がご両親の仕事の都合で京都から東京に引っ越してからは一切連絡をとっていなかった。当時汐月くんは珍しくスマートフォンを持っていなかったし、今ではこうして新幹線で気軽に移動できる距離でも中学生にとっては地球の裏側だと思ってしまうほど遠い場所だったのだ。
関係に親友という名称をつけたことはなかったけれど、ただの友だちよりも親しかった汐月くんは、私にとって特別な存在だった。図書室で一緒に勉強をしたり、帰り道に本屋や公園に立ち寄ったり……中学一年からいろんな思い出を積み重ねてきた。
引っ越しの話を聞いた時は、家に帰ってからベッドの中で泣いた。でも、嫌だと喚いても中止になるわけがないことはわかるくらいの年齢でもあったから、最後はなんとか笑って別れたことを思い出す。
まさか十年以上ぶりに。しかもこんな場所で偶然会えるなんて。
「汐月くんも元気? 今日は仕事?」
「ああ、今も東京に住んでるんだけど出張帰りなんだ。七瀬さんは?」
「私も東京だよ。帰省してて、その帰りなんだ」
「そうだったのか」
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