ほどけるくらい、愛して〜魔術師は異世界から来た運命のひとを逃がさない〜
「……サエ?」

 想い人の声で、彩瑛ははっと我に返る。心配そうな瞳が、彼女を見つめていた。
 必死に彼の言葉の答えを探す。意気地なしの彩瑛は、さよならを伝えることもできない。何とか引いてくれないだろうかと、誤魔化す言葉を口にする。

「……これから忙しくなるので、いつごろお時間取れるか、わからないんです。ですから、」
「それでもいい。落ち着いたらまた顔を出すから、そのときに予定を決めよう。……君に、伝えたいことがあるんだ」

 伝えたいこととは、何だろう?
 痛む胸を押さえながら、首を傾げて彼に問いかける。

「それは今だと、だめなんですか?」
「……っああ」
「そう、ですか」

 ――ならきっと自分は、もう彼と会えることはないだろう。
 胸元に下げたネックレスを、彩瑛はそっと握り締める。
 この世界に来て半年のときに、帰る方法は教えられていた。今は魔女と呼ばれ、愛する人とひっそりと暮らす――かつては同じ現代で生きていたという女性から。
 彼女はこの世界で生きることを選び、そして不要になったという帰る方法を記したメモを彩瑛に握らせてくれた。
 帰れるのは、一年刻みで。ただし、満月が出ていないといけない。そして一番重要なことは、この世界の人間に、心だけではなく身も委ねていないこと。
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