ほどけるくらい、愛して〜魔術師は異世界から来た運命のひとを逃がさない〜
 縁があって接点ができたけれど、本来であれば言葉を交わすことはおろか、顔を合わせることもなかった。
 なのに彩瑛は、そんな彼に|《恋》をしてしまった。きっかけは、たまたま目にした容姿がこの世界に来るまでにやっていたゲームのキャラクターに似ていたという、不純なものだった。けれど彼と関わるうちにそれは|《恋》へと変わっていた。
 ぬるい夜の風に髪が揺れ、頬を撫でていく。

『あの人には、幸せになって欲しいと思っている』

 身の程を弁えろと、先日の出来事を思い出した彩瑛は自分に言い聞かせる。

『王族や貴族の結婚は、政略的なものが多い。だが兄には、どんな形にせよ、愛のある結婚をして欲しい。あの人に相応しい女性と、幸せな結婚生活を送ってもらいたいんだ』

 どこか気怠げな、それでいて耳に馴染む低めの彼の声と違って、冷静で、けれど柔らかい声から放たれた王太子の言葉が、彩瑛の頭に蘇る。
 今までに恋してきたのは二次元ばかりだったし、こんなにも苦しくなる恋をしたのは初めてだったけれど、さすがに彩瑛だって気付いていた。この気持ちが報われることはないことを。

『身内の贔屓と言われても仕方ないだろうが、俺にできるのは、このぐらいしかないから』

 切なげに笑う王太子の姿が蘇る。
 ――決めた、はずだった。あるべき形に戻そうと、出会う前の日常に帰ろうと。なのに、決めたはずの心は迷子になったように揺らいでいた。
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