甘い痛みは秘密の夜に〜マスクを外した天才パティシエは、独占欲の塊でした〜

 こんなにも美味しいケーキを、どうしてひとりで夜に、あの規模で売るのだろう。自ずとその疑問が湧いてくる。利益を出すためなら、人通りの多い場所で昼間に大きな店で売ればいい。そしてその価値があるほどの腕前を持っている。それでもあの店はいつも開いているわけではない。

 開店日は完全に店主の気まぐれ。そしておそらく夜だけという、開いている日に巡り会えたらラッキー。そんな幻のような知る人ぞ知る隠れた名店、だからこそもったいない。素人ながら雛子はそう思う。

 すべてが謎に包まれている店だが、今日は何があるだろう……雛子の胸をそんな期待に膨らませる。嬉しさと楽しみを隠せず頬をほころばせながらドアを開け、お目当てのケーキを選び、包んでもらうわずかな時間。
 通い慣れた雛子は「店長さん」と呼ぶほど近しく距離を詰めだしていた。そんな雛子に嫌がらずに快く対応し、選んだケーキを簡単に説明してくれる。雛子もケーキの感想を述べ、会話が弾むようになる。
 
 好きなケーキ、好きなフルーツ……そんな自分の趣向までこぼせば「次はそれを作ってみようかな」そんな風に言ってくれた。
 その声と、優しく見つめてくれる瞳は、雛子のつまらない日常の中でとても贅沢な出来事になっていた。
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