あなたはどこで笑っていますか?
画面は静かだった。
先ほどの一文のあと、しばらく何も起きない。
ただ白い画面に、カーソルだけが点滅している。
松永季穂は、指を浮かせたまま動けずにいた。
閉じるべきだと思う。
他人のものだ。
そもそも、これはおかしい。
そう分かっているのに、視線だけが離れない。
そして、不意に画面が揺れた。
文字が、また一行増える。
「私は看護師でした」
それだけの一文だった。
なのに、胸の奥が少しだけ重くなる。
松永は無意識にスマホを握り直した。
看護師
その言葉だけが、やけに現実的だった。
次の瞬間、また文字が続く。
「子どもたちのいる病棟で働いていました」
画面に映る言葉が、少しずつ“人の輪郭”を持ちはじめる。
病棟。子どもたち。
それは松永にとって、いま自分が立っている場所と重なっていた。
ただの偶然なのか、それとも。
風が吹いて紙袋が揺れた。
松永は一瞬だけ視線を上げる。
誰もいない夜道。
でも、スマホの中だけは止まっていない。
「泣く子供をあやすことより、泣かない子供に気づく方が難しいと知りました」
松永の呼吸がわずかに浅くなる。
その1分は説明でもなく、感傷でもなく、ただの"経験"としてそこにあった。
知らない誰かの記憶なのに、妙に具体的だった。
次の文字が現れる。
「私はうまくできる看護師ではありませんでした」
松永は思わず画面から目をそらしそうになる。
その言葉が少しだけ自分に刺さった気がしたからだった。
でも画面は止まらない。
「それでもやめようとは思いませんでした」
沈黙夜の音が戻ってくる。
遠くの車の音、風の揺れ、呼吸。
それでもスマホの中だけは続いている。
「理由があったからです」
そこで1度だけ文字が止まる。
まるで言うかどうか迷っているように。
そして次の一行。
「誰にも言えなかった理由です」
松永の指先がほんの少し冷たくなる。
まだ名前も知らない誰かの人生なのに、もう"読み続けてしまっている自分"に気づく。
先ほどの一文のあと、しばらく何も起きない。
ただ白い画面に、カーソルだけが点滅している。
松永季穂は、指を浮かせたまま動けずにいた。
閉じるべきだと思う。
他人のものだ。
そもそも、これはおかしい。
そう分かっているのに、視線だけが離れない。
そして、不意に画面が揺れた。
文字が、また一行増える。
「私は看護師でした」
それだけの一文だった。
なのに、胸の奥が少しだけ重くなる。
松永は無意識にスマホを握り直した。
看護師
その言葉だけが、やけに現実的だった。
次の瞬間、また文字が続く。
「子どもたちのいる病棟で働いていました」
画面に映る言葉が、少しずつ“人の輪郭”を持ちはじめる。
病棟。子どもたち。
それは松永にとって、いま自分が立っている場所と重なっていた。
ただの偶然なのか、それとも。
風が吹いて紙袋が揺れた。
松永は一瞬だけ視線を上げる。
誰もいない夜道。
でも、スマホの中だけは止まっていない。
「泣く子供をあやすことより、泣かない子供に気づく方が難しいと知りました」
松永の呼吸がわずかに浅くなる。
その1分は説明でもなく、感傷でもなく、ただの"経験"としてそこにあった。
知らない誰かの記憶なのに、妙に具体的だった。
次の文字が現れる。
「私はうまくできる看護師ではありませんでした」
松永は思わず画面から目をそらしそうになる。
その言葉が少しだけ自分に刺さった気がしたからだった。
でも画面は止まらない。
「それでもやめようとは思いませんでした」
沈黙夜の音が戻ってくる。
遠くの車の音、風の揺れ、呼吸。
それでもスマホの中だけは続いている。
「理由があったからです」
そこで1度だけ文字が止まる。
まるで言うかどうか迷っているように。
そして次の一行。
「誰にも言えなかった理由です」
松永の指先がほんの少し冷たくなる。
まだ名前も知らない誰かの人生なのに、もう"読み続けてしまっている自分"に気づく。