身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜
29 王都はとても綺麗でした(2)
ベアちゃんのただ事ではない悲鳴を聞いて、私はとっさにマリアンヌ様の方を向いた。
平民風の男が猛スピードで近づいていく。手には光る物を持っていた。
護衛の隙をつき、マリアンヌ様に襲いかかろうと、男はその手を振りかざす。
「マリアンヌ様……っ!」
『マリアンヌ様っ!!』
私はマリアンヌ様へ向かって走り出す。
「お待ちくださいっ、奥様……っ」
エミリーの制止する声も耳に入らない。
マリアンヌ様を助けなければ、その一心で走った。
それは私だけの感情ではなかった。私とベアちゃんの魂が重なり合い、私を突き動かす。
マリアンヌ様を庇おうと、男との間に入ったその瞬間、私の身体から放たれる光により、男が弾かれる。
「……っ!?」
その男は弾き飛ばされ、地面に叩き付けられた。すぐさま護衛たちが男を捕らえた。
(すごい、今のベアちゃんの力!? よ……良かった……)
私が安堵してその場に倒れ込むと、マリアンヌ様が肩を支えてくれる。
「ベアトリス様っ、大丈夫ですか!? ベアトリス様っ!」
マリアンヌ様は私の顔を覗き込み、必死に叫ぶ。
(大丈夫ですよ……。マリアンヌ様が無事で良かったです……)
笑顔で答えるが、上手く声になっていない。
「ベアトリス様っ! ベアトリス様、しっかりなさって!」
(……マリアンヌ様、本当、大丈夫ですよ……、……あれ?)
マリアンヌ様の顔が遠ざかり、なぜか私は、マリアンヌ様がベアトリスの身体を支えて叫んでいる姿を見下ろしていた。
(……あれ? どういうこと……?)
心配そうに駆け寄るエミリーの姿や、男を連れていく護衛の姿、騒然とする人々を、私は俯瞰して眺めている。
まるで遠い世界の出来事のように……。
(……これって、私……、もしかして……)
私は段々と宙に舞い上がり、みんなの姿が遠ざかって小さくなっていく。
夕日に照らされる歌劇場の屋根や、遠くに王宮が見える。
私は慌ててヴァレンシュタイン公爵邸を探す。
(公爵邸はどこ!? お屋敷は大きくて、広い庭園があって、裏庭があって……)
視界が滲んでくるが、私は必死に目を凝らす。
(裏庭にはミントが生えていて、新しいガーデンテーブルがあって……っ、リンデンの香りが……っ)
ポロポロと瞳から溢れ出る涙が、頬をつたう。
いつかはこんな日が来るのは分かっていた。だけど、こんなに急に訪れるなんて。
(……アルフレッド様に、お別れすら……できなかった……)
伝えたいことは、いっぱいあった。……言えるチャンスはいくらでもあったのに。
今になって気付くなんて。……伝えればよかった。
たとえ、別れてしまうことになったとしても、素直に思いを伝えればよかった。
(……アルフレッド様……、私……、私は……っ)
オレンジ色に染まる王都はとても綺麗で、この目に焼き付けるように、ずっとずっと眺めていた。
――どのくらい経ったのだろうか。
気付くと私は、大きな木の扉の前に立っていた。この扉には見覚えがある。
「ここに、戻ってきたのね……」
だいぶ昔のことのように感じて、ふっと笑みを零す。
だって、あれから本当に色々なことがあったから。
ギィィィと、扉を開ける。
そこは前回来た時と同じで、窓口のようなカウンターがあり、白いマントを羽織った人が受付をしていた。
「あ……」
カウンターにいる一人の人と目が合う。彼はこの前に私を担当してくれた人だ。
「鈴本菫さん、どうぞ」
「は、はいっ」
名前を呼ばれ、私はカウンターへ向かう。
「お久しぶりですね。異世界での生活はいかがでしたか?」
彼はパラパラと書類に目を通し、チラリとこちらに視線を向けた。
「あ、はい。そうですね、……とても、楽しかったです」
「そうですか。……それでは、来世に行くにあたり、何か希望はありますか?」
「……来世……?」
「前回は、恋をして、結婚がしたいとおっしゃってましたね」
恋をして、結婚……。たしかに私は前回そう言った。
私は何もかも諦めてきた。
病気だから、やりたいこともできない。病気だから、夢を持っても仕方ない。
どうせ叶わないなら、最初から持たないほうがいいって。
……だけど、私は知ってしまった。恋をするということ、そして、愛されるということ。
(……もし死んでしまったら、この気持ちはどこに行ってしまうの? あんなにも楽しかった記憶は、どこに行ってしまうの……?)
胸に込み上げるこの感情を、抑えることができなくなってしまった。
自分勝手だ、我儘だと言われても、私は願わずにはいられない。
(……私、生きたい……。あの世界で、アルフレッド様と生きたいよ……)
溢れる涙を拭い、私はカウンターに両手をついた。そして、受付の男性に詰め寄る。
「あの、お願いがあるんです!」
「……はい?」
平民風の男が猛スピードで近づいていく。手には光る物を持っていた。
護衛の隙をつき、マリアンヌ様に襲いかかろうと、男はその手を振りかざす。
「マリアンヌ様……っ!」
『マリアンヌ様っ!!』
私はマリアンヌ様へ向かって走り出す。
「お待ちくださいっ、奥様……っ」
エミリーの制止する声も耳に入らない。
マリアンヌ様を助けなければ、その一心で走った。
それは私だけの感情ではなかった。私とベアちゃんの魂が重なり合い、私を突き動かす。
マリアンヌ様を庇おうと、男との間に入ったその瞬間、私の身体から放たれる光により、男が弾かれる。
「……っ!?」
その男は弾き飛ばされ、地面に叩き付けられた。すぐさま護衛たちが男を捕らえた。
(すごい、今のベアちゃんの力!? よ……良かった……)
私が安堵してその場に倒れ込むと、マリアンヌ様が肩を支えてくれる。
「ベアトリス様っ、大丈夫ですか!? ベアトリス様っ!」
マリアンヌ様は私の顔を覗き込み、必死に叫ぶ。
(大丈夫ですよ……。マリアンヌ様が無事で良かったです……)
笑顔で答えるが、上手く声になっていない。
「ベアトリス様っ! ベアトリス様、しっかりなさって!」
(……マリアンヌ様、本当、大丈夫ですよ……、……あれ?)
マリアンヌ様の顔が遠ざかり、なぜか私は、マリアンヌ様がベアトリスの身体を支えて叫んでいる姿を見下ろしていた。
(……あれ? どういうこと……?)
心配そうに駆け寄るエミリーの姿や、男を連れていく護衛の姿、騒然とする人々を、私は俯瞰して眺めている。
まるで遠い世界の出来事のように……。
(……これって、私……、もしかして……)
私は段々と宙に舞い上がり、みんなの姿が遠ざかって小さくなっていく。
夕日に照らされる歌劇場の屋根や、遠くに王宮が見える。
私は慌ててヴァレンシュタイン公爵邸を探す。
(公爵邸はどこ!? お屋敷は大きくて、広い庭園があって、裏庭があって……)
視界が滲んでくるが、私は必死に目を凝らす。
(裏庭にはミントが生えていて、新しいガーデンテーブルがあって……っ、リンデンの香りが……っ)
ポロポロと瞳から溢れ出る涙が、頬をつたう。
いつかはこんな日が来るのは分かっていた。だけど、こんなに急に訪れるなんて。
(……アルフレッド様に、お別れすら……できなかった……)
伝えたいことは、いっぱいあった。……言えるチャンスはいくらでもあったのに。
今になって気付くなんて。……伝えればよかった。
たとえ、別れてしまうことになったとしても、素直に思いを伝えればよかった。
(……アルフレッド様……、私……、私は……っ)
オレンジ色に染まる王都はとても綺麗で、この目に焼き付けるように、ずっとずっと眺めていた。
――どのくらい経ったのだろうか。
気付くと私は、大きな木の扉の前に立っていた。この扉には見覚えがある。
「ここに、戻ってきたのね……」
だいぶ昔のことのように感じて、ふっと笑みを零す。
だって、あれから本当に色々なことがあったから。
ギィィィと、扉を開ける。
そこは前回来た時と同じで、窓口のようなカウンターがあり、白いマントを羽織った人が受付をしていた。
「あ……」
カウンターにいる一人の人と目が合う。彼はこの前に私を担当してくれた人だ。
「鈴本菫さん、どうぞ」
「は、はいっ」
名前を呼ばれ、私はカウンターへ向かう。
「お久しぶりですね。異世界での生活はいかがでしたか?」
彼はパラパラと書類に目を通し、チラリとこちらに視線を向けた。
「あ、はい。そうですね、……とても、楽しかったです」
「そうですか。……それでは、来世に行くにあたり、何か希望はありますか?」
「……来世……?」
「前回は、恋をして、結婚がしたいとおっしゃってましたね」
恋をして、結婚……。たしかに私は前回そう言った。
私は何もかも諦めてきた。
病気だから、やりたいこともできない。病気だから、夢を持っても仕方ない。
どうせ叶わないなら、最初から持たないほうがいいって。
……だけど、私は知ってしまった。恋をするということ、そして、愛されるということ。
(……もし死んでしまったら、この気持ちはどこに行ってしまうの? あんなにも楽しかった記憶は、どこに行ってしまうの……?)
胸に込み上げるこの感情を、抑えることができなくなってしまった。
自分勝手だ、我儘だと言われても、私は願わずにはいられない。
(……私、生きたい……。あの世界で、アルフレッド様と生きたいよ……)
溢れる涙を拭い、私はカウンターに両手をついた。そして、受付の男性に詰め寄る。
「あの、お願いがあるんです!」
「……はい?」