身代わり結婚のはずが、冷徹眼鏡公爵様に溺愛される〜元新婦に身体を押し売りされて、幽霊として憑かれているのですが!?〜
8 観察、はじめました。
アルフレッド様はカップに口を付けると、ピクリと眉をひそめる。そして、カップをソーサーに戻し、スッと立ち上がった。
「……っ」
一瞬何か言いたげに口を開くが、眼鏡を押し上げると何も言わず部屋を出ていった。
今朝もテーブルに、朝食の数々が残されていた。
アルフレッド様の食事をこっそりと盗み見して分かったことは、全種類一口ずつは口にしている、ということだ。
その後は手を出さず、デザートのババロアだけは食べやすいのか、二口食べていた。そして、最後お茶を飲んで締める、そんな感じだった。
……少ない。成人男性の朝食なのにそれだけって、少なすぎる……。でも、朝はあまり食べない派もいるので、もう少し観察が必要かもしれない。
あともう一つ気になったのは、目の下のクマだ。もしかして昨夜は、一睡もしていないのでは……。
考え込んでいたら、フォークを持つ手が止まっていた。
(あ、私の食事が冷めてしまうわっ)
私は慌てて自分の朝食の残りを平らげた。
(昼食は部屋で食べているかもしれないし、どうやって調べようかな……)
そう頭を悩ませながら廊下を歩いていると、ベアちゃんが私に声を掛けてきた。
『スミレ、あれでバレていないつもりですの……?』
「ん? なにが?」
『……。……まぁ、面白そうだから、そのまま頑張りなさいな』
面白そうっていうのがよく分からないが、ベアちゃんに応援されて素直に嬉しい。
「うん、頑張る! ……でも、昼食のことは調べられないよね? また覗くわけにもいかないし……」
『そんなのセドリックに聞いてみればいいじゃない。秘密にするようなことでもないでしょう?』
「あ、そっか! そうする! ありがとう。さすがベアちゃん、頼りになるわ」
ベアちゃんの一言でぱっと道が開ける。笑顔でお礼を言うと、ベアちゃんは渋い顔をした。
『あ、あなたがあまりにも、頼りないのですから、仕方なく助言しただけですわっ』
いつもハッキリと言う彼女にしては少々歯切れが悪い口調だ。
(もしかして、照れてる……?)
『そうと決まったら、さっさとセドリックの所へ行きますわよ、スミレ』
「う、うん」
ベアちゃんに促され、私はセドリックさんを探しに向かった。
「セドリックさん、どこにいるのかな? アルフレッド様の執務室の隣の部屋?」
アルフレッド様の執務室の隣に小さな部屋があって、普段はそこで仕事していることが多いという。
『先程、冷血眼鏡は外へ出かけたみたいですから、今は一階の家令室にいると思いますわ』
「え? 出かけたの? ベアちゃんいつ見てたの?」
私が驚いて声を上げるが、ベアちゃんは涼しい顔で言った。
『そんなのスミレが朝食の時に決まってますわ』
「あ……そっか」
食べることに集中していて、ベアちゃんがいなかったのに気付かなかった。
「そういえば、ベアちゃんって、どこまで自由に飛んで行けるの?」
いつも私の近くにいるので、遠くまで行ってる姿を見たことがない。
『それが、あまり肉体と離れられないらしいですの。夜、スミレが寝ている時に、少しお屋敷から出ようと思ったのですけれど、引き戻されてしまいましたわ』
ベアちゃんは不機嫌そうに唇を尖らせた。
「そうだったんだ!?」
それはつまり、まだベアちゃんは魂と身体が完全に切り離されてないってことだろうか。
「ベアちゃん、夜中にどこへ行こうとしてたの?」
何気なしに聞いた質問に、彼女はぴたりと動きを止めた。
『……そ、それは、マリ……っ。な、何でもありませんわっ! 早くセドリックの所へ参りましょう!』
ベアちゃんは勝手に先に行ってしまう。
「あ、ベアちゃん、待って!」
私も慌てて後を追いかけた。
家令室は調理場へ向かう途中にあった。ドアをノックすると、セドリックさんの返事があったので扉を開けた。
「失礼します」
ドアの隙間から顔をのぞかせると、セドリックさんはこちらを見て目を丸くする。
「……奥様? いかがなされましたか?」
セドリックさんはデスクで仕事をしていたらしく、慌てて掛けていた眼鏡を外し、立ち上がった。
「あの、ちょっと聞きたいことがありまして……」
私が控えめに言うと、セドリックさんは僅かに首を傾げる。
「私に聞きたいことですか? 何か問題でもございましたか?」
セドリックさんは口調は柔らかいが、探るような瞳でこちらを窺っている。
「あの、アルフレッド様のことで、ちょっと気になったことがありまして……」
私はなんて聞いた方がいいか迷ってしまい、胸の前で合わせた手を擦り合わせていた。
「旦那様のことでですか? ……何でしょうか?」
セドリックさんは瞳を僅かに細める。
「えっと、その……、……アルフレッド様は、昼食は、しっかりと召し上がっていますかっ?」
「…………は?」
セドリックさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、硬直している。
(なんか、変なこと言った!? ストレートに聞きすぎたのかな?)
「えっと、ですね。昨日も、今朝も、朝食をあまり召し上がっていないようでしたので、昼食はちゃんと召し上がっているのかな、と心配になりまして。ほら、仕事をなさるのに、あまりに食事量が少ないのは、問題だなと思ったわけなのですっ」
焦りと、緊張で、セドリックさんに捲し立てるように語ってしまった。
「……はぁ、左様ですか……」
変な空気が流れている。
恥ずかしくなって俯いていると、セドリックさんはコホンと一つ咳払いをした。
「奥様は、旦那様を心配なさっていると?」
そう確認され、私は顔を上げた。
セドリックさんの視線が突き刺さる。今は逸らしてはいけないと思い、その薄茶色の瞳を受け止めた。
「はい。心配です」
私が真っ直ぐに答えると、セドリックさんは小さく息を吐いた。
「そうですか。……旦那様は、昼食は基本、召し上がりません。夕食に関しては、仕事をしながら召し上がれる軽食など、お申し付けがあればご用意いたしますが、やはり、量はあまり召し上がりませんね」
「え!? そうなんですか!?」
昼食は食べなくて、夕食も軽食、それも量は少ない。
それで、あんなに遅くまで仕事をしている。今だって、仕事に出かけたのだろう。
私は自分の口元を手で覆いながら考え込む。
「……奥様、私に聞きたいことは以上でございますか?」
「……あの、セドリックさん」
「はい?」
「私が、アルフレッド様に差し入れをしても、構いませんか?」
「……っ」
一瞬何か言いたげに口を開くが、眼鏡を押し上げると何も言わず部屋を出ていった。
今朝もテーブルに、朝食の数々が残されていた。
アルフレッド様の食事をこっそりと盗み見して分かったことは、全種類一口ずつは口にしている、ということだ。
その後は手を出さず、デザートのババロアだけは食べやすいのか、二口食べていた。そして、最後お茶を飲んで締める、そんな感じだった。
……少ない。成人男性の朝食なのにそれだけって、少なすぎる……。でも、朝はあまり食べない派もいるので、もう少し観察が必要かもしれない。
あともう一つ気になったのは、目の下のクマだ。もしかして昨夜は、一睡もしていないのでは……。
考え込んでいたら、フォークを持つ手が止まっていた。
(あ、私の食事が冷めてしまうわっ)
私は慌てて自分の朝食の残りを平らげた。
(昼食は部屋で食べているかもしれないし、どうやって調べようかな……)
そう頭を悩ませながら廊下を歩いていると、ベアちゃんが私に声を掛けてきた。
『スミレ、あれでバレていないつもりですの……?』
「ん? なにが?」
『……。……まぁ、面白そうだから、そのまま頑張りなさいな』
面白そうっていうのがよく分からないが、ベアちゃんに応援されて素直に嬉しい。
「うん、頑張る! ……でも、昼食のことは調べられないよね? また覗くわけにもいかないし……」
『そんなのセドリックに聞いてみればいいじゃない。秘密にするようなことでもないでしょう?』
「あ、そっか! そうする! ありがとう。さすがベアちゃん、頼りになるわ」
ベアちゃんの一言でぱっと道が開ける。笑顔でお礼を言うと、ベアちゃんは渋い顔をした。
『あ、あなたがあまりにも、頼りないのですから、仕方なく助言しただけですわっ』
いつもハッキリと言う彼女にしては少々歯切れが悪い口調だ。
(もしかして、照れてる……?)
『そうと決まったら、さっさとセドリックの所へ行きますわよ、スミレ』
「う、うん」
ベアちゃんに促され、私はセドリックさんを探しに向かった。
「セドリックさん、どこにいるのかな? アルフレッド様の執務室の隣の部屋?」
アルフレッド様の執務室の隣に小さな部屋があって、普段はそこで仕事していることが多いという。
『先程、冷血眼鏡は外へ出かけたみたいですから、今は一階の家令室にいると思いますわ』
「え? 出かけたの? ベアちゃんいつ見てたの?」
私が驚いて声を上げるが、ベアちゃんは涼しい顔で言った。
『そんなのスミレが朝食の時に決まってますわ』
「あ……そっか」
食べることに集中していて、ベアちゃんがいなかったのに気付かなかった。
「そういえば、ベアちゃんって、どこまで自由に飛んで行けるの?」
いつも私の近くにいるので、遠くまで行ってる姿を見たことがない。
『それが、あまり肉体と離れられないらしいですの。夜、スミレが寝ている時に、少しお屋敷から出ようと思ったのですけれど、引き戻されてしまいましたわ』
ベアちゃんは不機嫌そうに唇を尖らせた。
「そうだったんだ!?」
それはつまり、まだベアちゃんは魂と身体が完全に切り離されてないってことだろうか。
「ベアちゃん、夜中にどこへ行こうとしてたの?」
何気なしに聞いた質問に、彼女はぴたりと動きを止めた。
『……そ、それは、マリ……っ。な、何でもありませんわっ! 早くセドリックの所へ参りましょう!』
ベアちゃんは勝手に先に行ってしまう。
「あ、ベアちゃん、待って!」
私も慌てて後を追いかけた。
家令室は調理場へ向かう途中にあった。ドアをノックすると、セドリックさんの返事があったので扉を開けた。
「失礼します」
ドアの隙間から顔をのぞかせると、セドリックさんはこちらを見て目を丸くする。
「……奥様? いかがなされましたか?」
セドリックさんはデスクで仕事をしていたらしく、慌てて掛けていた眼鏡を外し、立ち上がった。
「あの、ちょっと聞きたいことがありまして……」
私が控えめに言うと、セドリックさんは僅かに首を傾げる。
「私に聞きたいことですか? 何か問題でもございましたか?」
セドリックさんは口調は柔らかいが、探るような瞳でこちらを窺っている。
「あの、アルフレッド様のことで、ちょっと気になったことがありまして……」
私はなんて聞いた方がいいか迷ってしまい、胸の前で合わせた手を擦り合わせていた。
「旦那様のことでですか? ……何でしょうか?」
セドリックさんは瞳を僅かに細める。
「えっと、その……、……アルフレッド様は、昼食は、しっかりと召し上がっていますかっ?」
「…………は?」
セドリックさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、硬直している。
(なんか、変なこと言った!? ストレートに聞きすぎたのかな?)
「えっと、ですね。昨日も、今朝も、朝食をあまり召し上がっていないようでしたので、昼食はちゃんと召し上がっているのかな、と心配になりまして。ほら、仕事をなさるのに、あまりに食事量が少ないのは、問題だなと思ったわけなのですっ」
焦りと、緊張で、セドリックさんに捲し立てるように語ってしまった。
「……はぁ、左様ですか……」
変な空気が流れている。
恥ずかしくなって俯いていると、セドリックさんはコホンと一つ咳払いをした。
「奥様は、旦那様を心配なさっていると?」
そう確認され、私は顔を上げた。
セドリックさんの視線が突き刺さる。今は逸らしてはいけないと思い、その薄茶色の瞳を受け止めた。
「はい。心配です」
私が真っ直ぐに答えると、セドリックさんは小さく息を吐いた。
「そうですか。……旦那様は、昼食は基本、召し上がりません。夕食に関しては、仕事をしながら召し上がれる軽食など、お申し付けがあればご用意いたしますが、やはり、量はあまり召し上がりませんね」
「え!? そうなんですか!?」
昼食は食べなくて、夕食も軽食、それも量は少ない。
それで、あんなに遅くまで仕事をしている。今だって、仕事に出かけたのだろう。
私は自分の口元を手で覆いながら考え込む。
「……奥様、私に聞きたいことは以上でございますか?」
「……あの、セドリックさん」
「はい?」
「私が、アルフレッド様に差し入れをしても、構いませんか?」